第16話 氷嬢様とメイド喫茶
鈴女「・・・・・・。」
10月、土曜日の休みの午前中。鈴女は散らかってごみ屋敷になっている自分の部屋で、ハンガーにかけてある衣装をじっと見ていた。
鈴女「(文化祭で着る衣装を渡されたのですが・・・・・・)」
そのある衣装とはメイド喫茶とかでよく見るフリル付きのエプロンドレスだった。10月半ばに行われる文化祭の出し物としてメイド服を着て接客をするメイド喫茶をすることに。そこで接客担当の鈴女もメイド服をもらったのだが・・・・・・
鈴女「(そもそもメイドというのはどういうことをしなくてはならないのでしょうか?そうだ、主税さんに聞いてみましょう。)」
鈴女は隣の部屋に住んでいる同級生の主税に聞いてみることに。ピンポーンとチャイムを鳴らす。
主税「ほーい、どうしたん・・・・・・」
ドアを開けた主税は鈴女を見て唖然とした。
鈴女「あの・・・・・・主税さんに聞きたいことがありまして。」
主税「いや・・・・・・そんなことより。なんでメイド服着てウチに来たんだ?」
鈴女「その・・・・・・メイドってどんなことをすればいいのか着れば何か分かると思ったのですが、全然分からなくてですね・・・・・・」
主税「あー・・・・・・文化祭のやつだよな。メイド喫茶は俺も行ったことないから分かんないけど。知ってることならやってきたお客さんに向かって「お帰りなさいませ、ご主人様♡」とか言うんだよ。」
鈴女「え・・・・・・ご主人様でもないのにですか?」
主税「そういうコンセプトだから!とにかく、早く入れ!こんなところを誰かに見られたらその・・・・・・」
鈴女「そうですね。ではお邪魔します。」
鈴女が主税の部屋に入りリビングのソファに腰を下ろした。
主税「そういや、そろそろ12時になるな。そうだ、昼飯オムライスとかどうだ?」
鈴女「なぜオムライスなのですか?」
主税「思い出したんだ。メイド喫茶だとケチャップでオムライスにハートマークを描くんだよ。そして「美味しくな~れ。萌え萌えキューン!」っておまじないをかけるんだよ。」
鈴女「・・・・・・主税さん。セリフを言うときちょっと声高くしてるの面白いですね。」
主税「・・・・・・うるせぇ。」
主税は顔を赤らめてそっぽを向き、そのままキッチンへ向かった。
主税はチキンライスを炒めて、そのあとに卵を溶いて形を整えチキンライスの上に乗せた。
主税「ほい、ナイフで卵を切ってみ?」
鈴女「はい。」
鈴女はナイフを受け取ると卵に切れ目を入れた。するとトロトロの卵が割れてチキンライスを包み込んだ。
鈴女「・・・・・・すごいです。こんなフワトロなオムライスを作れるなんて。」
主税「これ、かなり難しいからな。じゃあこのケチャップでハート描いてみなよ。」
鈴女は主税からケチャップを受け取るとキャップを開けてオムライスにケチャップをかけようと・・・・・・
鈴女「ふんっ!」
勢いよくボトルを握ったせいでケチャップが飛び散った。
鈴女「あ・・・・・・主税さん。すみません。」
主税の顔にもケチャップが散った。
主税「俺は大丈夫だから、でも鈴女さんのエプロンにもついてる。」
主税は顔についたケチャップをタオルで葺いた後。手を差し出した。
主税「貸せよ、ケチャップのシミ取るから。」
鈴女「あ・・・・・・ありがとうございます。」
主税は鈴女のエプロンを受け取りティッシュペーパーで汚れを拭き取った。その後、中性洗剤で手洗いした後、ドラム型洗濯機で洗濯した。
主税「さてと・・・・・・このオムライス、メイドじゃなくて冥土に行かされるようなデザインになったよな。」
鈴女「え・・・・・・それってどういう意味ですか?」
主税は例え話をうまく言ったつもりだったが、分かってもらえなくてどう返していいか分からなくなった。
主税「じゃ・・・・・・じゃあ食うか。鈴女さんはこのまだケチャップがついてないこのオムライスを・・・・・・」
鈴女「いえ、これは・・・・・・」
鈴女はケチャップのかかっていないオムライスを自分の前に寄せて。ケチャップで今度は勢いよくではなく、気を付けながらゆっくりとオムライスの上に、不格好なハートが出来上がった。そして・・・・・・
鈴女「お・・・・・・美味しくな~れ。もえもえきゅ~ん・・・・・・」
恥ずかしさがあるのか、ちょっと棒読み感があるが美味しくなる呪文を唱えた鈴女。
主税「(かっかわいい・・・・・・でも・・・・・・)」
主税は顔をそむけた。
鈴女「あの、主税さん。そんなにおかしかったですか?」
主税「いやその・・・・・・エプロンつけてないからメイド服の胸元が強調されて・・・・・・」
鈴女「あ・・・・・・」
鈴女は胸元を手で隠した。
鈴女「ご主人様の・・・・・・エッチ。」
その後、二人でオムライスを食べたが味は覚えていない主税だった・・・・・・
日にちが経ち、文化祭の準備期間。主税のクラスでは机を並べたり飾り付けを行っていた。そんな中、調理班はオムライスづくりの練習をしていた。
女子生徒A「どうかな?このオムライス?」
女子生徒B「うん、うまくできてると思う。ねえ、そっちは・・・・・・」
女子生徒C「わぁすごぉい!!」
オムライスを作っていた二人の女性の後ろでざわめきが起こっていた。
女子生徒B「どうしたの?」
女子生徒C「鍛冶場くんの作る半熟オムライスがフワトロで美味しそうなのよ!」
女子生徒A「どれどれ・・・・・・え!?プロレベルじゃん!?」
主税「そうかな?」
女子生徒B「もう、鍛冶場くん一人にオムライスづくり任せようよ!」
主税「いやいや!さすがに無理やって!」
女子たちに囲まれて褒められている主税の姿を見ていた鈴女の胸に、違和感が・・・・・・
鈴女「(また・・・・・・この締め付ける感じ。)」
女子生徒D「氷堂さん。胸を押さえて大丈夫?」
鈴女「大丈夫です。落ち着きましたので。」
女子生徒D「保健室行かなくても大丈夫?」
鈴女「はい。」
女子生徒D「ならいいけど、無理はしないでね。」
鈴女「ありがとうございます。」
鈴女はいつの間にか胸の違和感がなくなっていることを感じた。
鈴女「(そろそろこの原因を突き止めないと・・・・・・そうだ、倫さんと朱莉さんにこのことを相談してみましょう。)」
その日の放課後、近くのハンバーガーショップに倫と朱莉を呼んだ鈴女。
倫「ポテトとお茶ってそれだけで足りるの?」
鈴女「はい。」
朱莉「ほんとに?私は家で晩御飯食べられなくなるからアップルパイだけだけど。」
倫「まあいいけどね。それで鈴女ちゃん。」
鈴女「はい。」
倫・朱莉「相談って何?」
鈴女「実は・・・・・・体育祭の直前くらいからなのですが、胸を締め付けられるような感じがするのです。」
朱莉「病気?」
鈴女「病院で確認したのですが、特に異常はないとのことでした。」
倫「でも今は何ともないんだよね?」
鈴女「はい。今は全然・・・・・・」
朱莉「今は何ともないってことはさ。その時の状況を教えてくれない?その、胸が苦しくなる時の。」
鈴女「そうですね。最初にこの気持ちを感じたのは、主税さんと上杉さんが仲良く話していたのを見ていた時ですね。」
朱莉と倫は互いに顔を見合わせた。
朱莉「それってさ・・・・・・」
倫「ヤキモチじゃない?」
鈴女「ヤキモチ・・・・・・なぜお餅が出てくるのですか?」
倫「いや、焼くお餅のことじゃなくて・・・・・・」
朱莉「じゃあさ鈴女ちゃん!その胸を締め付けるとき、鍛冶場くんを見ているときに出ていない?」
鈴女「そういえば、主税さんがいるときに出ますね。」
朱莉「倫警部。これは確信犯ですね~」
倫「間違いないわね。朱莉巡査。」
鈴女「原因が分かったのですか?」
朱莉「うん。単刀直入に言いましょう。」
朱莉は鈴女のポテトを一本抜き取り、そのポテトを鈴女に差した。
朱莉「鈴女ちゃん。あなたは、鍛冶場主税くんに恋をしています。」
鈴女「恋・・・・・・。」
鈴女はいつもの無表情でさらに目が点になっていた。
倫「朱莉ちゃん、もっと簡単に言わないと。鈴女ちゃんは主税のことが好きなんだって。」
鈴女「好き・・・・・・確かに主税さんのことは好きですよ。」
倫「いやいや、「Like」の方じゃなくて「Love」の方だよ。」
鈴女「さっきから何をおっしゃっているのでしょうか?」
朱莉「そっか・・・・・・今まで恋愛したことがないから急にそんなこと言われても分からないよね。私もだけど・・・・・・」
倫「なら、主税の隣、私が捕っちゃおうかな・・・・・・」
朱莉「え!?」
倫「実はね、私も主税のこと好きなの。でも、幼馴染だしなかなか踏み出しづらくて。でも、鈴女ちゃんも主税のことが好きって分かったし、先に告白しようかなと思ってさ。」
鈴女「・・・・・・。」
鈴女は左胸を押さえた。
倫「どう?痛くなった?」
鈴女「はい・・・・・・」
倫「それが答えよ。ちなみに主税のことが好きなのは噓だからね。」
鈴女「嘘・・・・・・」
倫「痛み引いた?」
鈴女「はい。」
朱莉「やっぱりそうなんだ。でも確かに鍛冶場くんはモテるよね。料理はプロ並みだし、家事全般できるしね。顔立ちも整っているし。」
倫「毎年バレンタインチョコも袋いっぱいもらっているしね。」
朱莉「やっぱり!?」
倫「でも、何人かはホワイトデー目当てだろうけどね。」
朱莉「なるほどね・・・・・・」
倫「そっか・・・・・・主税のことが好きなのか。鈴女ちゃんも青春してるわね。」
朱莉「うん。鍛冶場くんも意識しているかも。」
倫「どうかなぁ。アイツ超がつくほどの鈍感だからね。」
朱莉「果たしてこの恋が実るかどうか・・・・・・」
話し合いが終わった鈴女たちはその場で解散した。鈴女はそのまま家に帰りマンションのエントランスに向かった。
小雪「お母さんに安売りの卵買ってきてと頼まれたけど、この先だよね。スーパーマーケットは。」
小雪は母のおつかいで卵を買いにスーパーに向かっていた。
小雪「(文化祭。休憩時間に主税くんと一緒に周れるといいな。休憩時間が合えばの話だけど。)」
小雪は道を歩いていると、マンションのエントランスに入ろうとしている鈴女を見つけた。
小雪「(ここのマンション、氷嬢様が住んでいるんだ。家から近いな。)」
小雪は再び視線を道に戻したとき。目先に両手に荷物を抱えた主税が見えた。
小雪「(あ、主税くん。すごい荷物だけど帰り道ここなのかな?思い切って声かけてみようかな?)ちか・・・・・・」
小雪は主税に声をかけようとしたが・・・・・・
主税「おっ、鈴女さん!」
主税の声に反応した鈴女が振り返った。小雪はすぐ近くの茂みに隠れた。
鈴女「主税さん。今お帰りですか?」
主税「今日卵が安売りだからさ。文化祭の練習用に購入したんだよ。他にも買わなくちゃならないものがたくさんあったからこの量になった。」
鈴女「片方持ちましょうか?」
主税「いいって、女子に重いものは持たせられないって。」
鈴女「それで、今日の晩御飯は何でしょうか?」
主税「今日はオムライスにしようと思うけど。」
鈴女「ここのところ多いですよね。」
主税「ちっちっち。今日はビーフシチューをかけた豪華なやつだ。」
鈴女「はい、楽しみです。」
主税と鈴女が共にマンションのエントランスホールに入るところを見てしまった小雪は・・・・・・ショックのあまり啞然としていた。
小雪「(うそ・・・・・・主税くんと氷嬢様同じマンションに住んでいたの?しかもご飯も一緒に食べているって・・・・・・こんなの半同棲みたいなものじゃない。神様・・・・・・あまりにもひどすぎるよ。)」
こうして文化祭当日を迎え、エプロンをつけた主税はフライパンにバターを馴染ませていた。同じく調理班の咲に話しかけられた。
咲「まさか、鍛冶場くんの「フワトロ半熟オムライス」がまさか商品化されるとはね。」
主税はフライパンに溶いた卵を入れて軽くかき混ぜていた。
主税「普通のやつならみんな作れるけど、半熟が作れるのは俺だけだからな。」
咲「まあ午前と午後で数量限定にしているから負担はかからないと思うから大丈夫だよ。」
男子生徒A「半熟オムライス2つ入ったぞ!」
注文を受けた男子生徒が厨房に入ってきて注文内容を伝えた。
主税は卵を盛りつけたチキンライスにのせた。
主税「2個目作るからちょっと待ってろ。」
男子生徒B「普通のオムライスも注文入ったぞ!」
咲「私が作るよ。」
女子生徒C「チキンライスの盛りつけ私がやるよ!」
主税「頼むよ。」
一方、エプロンドレス姿の鈴女は出来上がったオムライスを持って頼んだ人のテーブルに置いた。そして、ケチャップで不格好なハートを書き、美味しくなるおまじないをかけた。
鈴女「おいしくなーれ。もえもえきゅーん。」
かなりの棒読みでほとんど無表情だが、そこがいいと一部のお客さんから好評だった。厨房では半熟オムライスの好評ぶりにわずか1時間で完売となってしまった。
お客様「え~半熟オムライス終わり?」
男子生徒B「すみません。次は午後1時からになりますので。」
主税「1時間で完売か。思ったより早かったな。」
男子生徒C「あのクオリティで普通のオムライスのプラス300円だからな。食べたくなるだろ。」
咲「鍛冶場くん。ちょっと休憩したら?多分昼以降は休憩取れないと思うし、今のうちに行ってきなよ。」
主税「わりぃ、あと頼むわ。」
主税はエプロンをテーブルに置いて教室を出ていくことに。
主税「さぁて、せっかく休憩もらえたし、どうすっかな?駿介が宣伝しに行ってるし他に周れる人が・・・・・・」
鈴女「主税さん。ここにいたのですか?」
主税が振り返るとエプロンドレスの上に学校のジャージを着た鈴女がいた。
主税「鈴女さん!?」
鈴女「私、今から休憩に入りまして。主税さんも同じ時間から休憩入るって聞きまして。」
主税「そうだけど・・・・・・」
?「鈴女ちゃ~ん!!」
その声の正体は朱莉だった。
朱莉「鍛冶場くんも一緒なんだね。ちょうどよかった。二人にこちらを授けよう。」
朱莉が渡したのはプラスチックのパックに入った焼き飯だった。しかも2パック。
朱莉「あのさ、ご飯食べるなら屋上前の踊り場がいいわよ。人通りもないし。」
主税「そうだな。そこで食うか。」
鈴女「ありがとうございます。」
朱莉「いいってことよ。」
朱莉は去り際に、鈴女の耳元で「頑張ってね。」と耳打ちをした。
屋上前の踊り場についた2人は腰を下ろした。
主税「忙しかっただろ。」
鈴女「はい、誰かさんの料理のせいで想像の倍以上は動いでましたね。」
主税「俺のせいかよ!」
鈴女「でも、美味しいですのでしょうがないですよね。」
主税「そらどうも。」
鈴女「焼き飯早く食べないと冷めてしまいますよ。」
主税「だな。じゃあいただき・・・・・・」
鈴女「待ってください。」
主税「なんだ?」
鈴女は自分の持っている膝の上に置いた焼き飯のパックを開けて手でハートマークを作った。そして・・・・・・
鈴女「美味しくな~れ。萌え萌えキュ~ン♡」
今までの無表情とは違い、微笑みながら感情のこもった呪文を唱えた。隣で見ていた主税はあまりの可愛さに固まっていた。
主税「・・・・・・反則だろ。」
その後、二人で仲良く焼き飯を食べた。呪文が聞いたのか焼き飯が美味しく感じた。
主税「食い終わったし、この後どうする?」
鈴女「そうですね。次は・・・・・・」
主税のスマホが鳴った。
主税「駿介か?どうした?」
主税が駿介と電話で会話をした。電話を切った主税は
主税「お昼ごろになって、忙しくなったから手を貸してくれだと。俺、先に戻るわ!」
鈴女「はい、私はもう少し休んでから行きます。」
主税は急いで階段を下りた。
鈴女「・・・・・・行きましたか。」
鈴女は階段を下りていると下の階で小雪が立っていた。
鈴女「上杉さん。どうしてこんなところにいるのですか?」
小雪「氷堂さん・・・・・・いえ、氷嬢様。話があるの。」
第16話(完)
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