第10話 イベントが終わって

 「お疲れ様でした。」

 荷物を包み終えて帰る頃、周りの店は殆ど片付けを済ませていて帰っていた。出店していた殆どお店は、これが初めてではないので、片付けには慣れていて、すんなり早い。自分たちの会社も初めてではないが、まだ要領を掴めていなく、時間がかかっていた。空の端が少し茜くなり始めており、気温は日中の最高気温から徐々に下がり始めている。昼間は上着を脱いで作業していたのだが、今は着ないと肌寒い。片付けがなんとか終わり、解散をした。帰りも及川に送ってもらうので、車に乗せてもらい、会場を後にする。

 「あのさ、家行く前に会社によりたいんだけど、だいじょぶ?」

駐車場から出るために、ウインカーをつけながら言う及川。五筒は特に断る理由はないので理由を聞くことなく返事をした。

 「あと、悪いんだけど着いたら手伝ってくれない?」

 先ほどと同じく返事をする五筒。連続の即答にすこし驚きと心配が入り混じった声で及川は五筒に尋ねた。

 「動ける?まだ。」

 「まぁ、そうですねぇ。かなりの重労働ですか?時間かかるものですか?」

 「後ろの荷物会社のだから、置いてから帰りたいのよ。この分だけでもある程度片づけておきたくて。」

 「段ボール2つですしどちらも私たちが使っていたスペースの物ですよね。何とかなりますよ。」

にこりと笑う五筒に、及川はあんがと、と言い車を走らせた。


 「それにしても。」

ふう、とため息吐き、深刻な顔つきで五筒はお茶を一口飲んだ。あまりそういう表情のしない五筒をみて、及川はどうしたのか尋ねた。大したことではないのですが、と前置きをしつつ、表情は変えずに五筒は話を続ける。

 「なんで一本道なのに朝迷ったんですかねぇ。ちゃんとカーナビも付けてたのに。」

 「んー分からん。あ、言ってなかったけど、私まあまあな方向音痴よ。」

少し沈黙した。沈黙の間、五筒の目は通常の1.2倍ほど見開いていた。

 「あ、あぁ。なるほどです。」

五筒は、車の運転が出来る人は、道に詳しく地理力というか、地図を見る能力が運転しない人よりは優れているものだと思い込んでいた。その為、朝は及川に行先を任せていて、住所は知っていたものの運転経路は気にしていなかった。変に口を出さずに、ただ及川に任せておけば良いとさえ思っていた。及川に一応朝場所の話をすると、カーナビに住所を入れているとのことだったし、会場付近のコンビニも調べていたので、安心しきっていた。及川も事前になんとなく運転経路はネットで調べており、話に出た通り後半は一本道なので、通り過ぎない限りは迷いようがないのだ。

 「通りすぎるには、あまりにも広い敷地だから、入り口見逃したとしても木々が生い茂っている所から開けた丘が続くから、分かるはずなんだよなぁ。」

「ですよね。急に木々がなくなりますし、大きな建物ですら見つけられなかったですからねぇ。」

 ほんと、RPGとかによくある迷いの森にでも入ったのかと思ってしまった。

「でもまあ、たどり着くことも出来ましたし、帰る事も大丈夫でしょう。」

にこっと笑う五筒に、にやっと笑う及川。

「二度あることは、三度あるっていうよねぇ。」

にやにや笑いながら言う及川。おそらくわざと言っているに違いないと思ってはいるものの、今朝の事を考えると、不安がひとかけら残ってしまう。

「え、いや、カーナビあるし、皆の車の後ろついていけば迷う事ないですよ。」

自分にも大丈夫とカーナビを見て暗示をかけながら言葉にする五筒。及川の顔を見ると笑ったまま顔が固まりかけてしまった。及川がさらに拍車をかける。

「みんな、迷子になる事だって、ないわけでもないでしょう?」

「もう、変な事言わないで下さいよ。ほら、そこウインカーつけて下さい。」

焦って少し早口になる五筒にはいはい。と返事をしながらウインカーを付け朝来た道を辿っていった。

 「あれ、こんなに国道近かったんだね。」

朝来た時は帰りの倍はかかっていた気がする。迷ったのもあるが、帰りは一度見ている景色だから体感時間が余計に少なく思うのだろうか。

「道も空いていますし、すんなり帰れそうですね。」

流石にここから迷うことは無いだろうと五筒は安心してナビから目を離し、街灯や街並み歩く人をぼんやり眺めていた。

「及川さん休みとか帰ったら何するんですか?」

何気なく聞いた。特に意図はなく、無言が嫌だった訳でもない。及川さんに失礼ではあるが、すごく知りたかった訳でもない。

「え、家事全般終わったらゲームかな。休みも用事がなければ外には行かない。」

「そうなんですか?私、アクティブに外に行くものかと思っておりました。」

「本当?インドア派よ基本。アニメも好きだし、ゲームも好き。」

「あ、じゃあそのラバーストラップって。」

「うん。ゲームの武器なんだけど、私は違うやつ使うこと多いかな。形はこれが好きなんだ。」

「そうだったんですね。私も酔いやすいけどこのゲームしますよ。大体3回くらいで酔ってしまうからなかなか上手くならなくて。」

「あーわかる。酔うよね。大体薬飲んでやってる。」

「…え?」

「ん?酔い止め。飲むといいよ。」

「ゲーム…本気じゃないですか。」

「だって、つよくなりたいじゃん。」

「いぃや少年漫画の主人公のセリフそれ。」

「なるほど。薬に頼る主人公かっこ悪いなぁ。」

「確かに。」

ほんのり疲れて眠気が出できそうかもとお互い心配していたが、話が目的地に到着するまでずっと続き、結果家に着いて落ち着いた後でゲームのフレンドコードを送ることを約束して解散したのだった。

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及川さんが好きすぎて困っています 月終 @tukisima-oto

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