第23話 ※※※※※とある少女の視点

―――—とある少女からの視点―――—



私は世界の中心にある十三都市で生まれた15歳の女だ。

私を含めた10人の女が、囚人を運ぶために設計された馬車に乗せられ、長い時間揺らされていた。

鉄格子に囲まれている客席の周囲には、外からは見えないようにシートが巻かれている。

同乗している女の年齢は、上が30歳くらいだろうか。

見知った者は誰もいない。

全員の手首には手錠がつけられているが、囚人というわけではない。

泣き叫んでいた何人かについては、正体不明の煙を吸わされてから静かになっているものの、目はうつろになり、よだれを垂らしている。

体の中へヤバい薬か何かを入れられてしまったせいなのだろう。

私は、両親が3日前に他界し一人でいたところを見知らぬ男達に誘拐・監禁されてしまった。

私はゴロツキ達に慣れた様子で手際よく攫われてたのだ。

まさに常習犯といった感じだ。

絶対にかかわり合いになってはいけない裏組織のヤバい奴等だが、どうして私は巻き込まれてしまったのだろうか。

馬車に乗せられている女達は、おそらく同じようなことをされ、連れてこられたものと思われる。

ゴロツキ達は、私のように探してくれる者が誰もいない女ばかりを狙い撃ちにし、誘拐しているのかもしれない。



私達は人身売買の商品として、Kaus-Australisカウスアウストラリスと呼ばれている地区へ連れられてきていた。



略して『K-A地区』。

そこには『人馬迷宮』と呼ばれている地下ダンジョンがあり、『catastropheカタストロフィ』と呼ばれる大災害と呼ばれている存在がいるというのは有名な話だ。

――――――――――『Catastrophe』の意味とは『世界の結末』。

その者は人類の敵の一つとして災害認定をされており、その正体は悪魔であると噂されていた。

いずれやってくる厄災に備え、十三都市を守護する『カルテット同盟』の4聖人は、この『K-A地区』を戦場として指定していたのだ。

だが実状は、行き場の無い者達が集まり街をつくり生活していた。

その結果、ここは法律が通用しない理不尽かつ最も治安の悪いエリア、いわゆる無法地帯になってしまっていたのだ。

そんな場所に私は連れてこられていた。


馬車内部は鉄格子をシートで覆われているせいで、外からの光は遮断されている。

それでも外部からの音は聞こえてきており、他の地区と比べると明らかにうるさく、怒声が頻繁に聞こえ、治安が悪いものだと容易に想像がつく。

とにかく怖い。

私の未来は、人身売買され性奴隷になること。

想像するだけで生きているのが辛い。

何故、このような仕打ちを受けなければならないのだろう。

貧しい家に生まれてことを両親に文句を言った罰なのか。

悪いことはいくつも重ねてきたが、どれもこれも小さいもので、皆がやっているようなことばかりだったはず。

私はこの世界にいる唯一神『ラプラス』に見捨てられてしまったのだろうか。


乗っていた馬車が目的地に到着したようだ。

重かった心が更に重くなる。

馬車に揺られている間、死刑台に向かっているような感覚に陥っていた。

まさに全身を鎖でがんじがらめにされているようだ。

ゴロツキ達に促されて馬車から降りた空は、厚い雲が空を覆っており、太陽が高い位置にある時間帯であるにもかかわらず、既に日が沈んだかのように辺りが暗い。

空気は湿気ており、すぐにでも降ってききそうだ。

手入れがされていない建物は並んでいるが、人は住んでいるようには感じられない。

土が固められている道には、風にゴミが転がっている。

私達を監禁し運んできた男達は、全員がいきった姿をしており、何らかの物騒な凶器を持っていた。

いかにもといった感じの犯罪者集団である。


雑多な建物が並ぶ中。

私達を出向かうように、ゴロツキ達がゾロゾロと姿を現してきた。

20人くらいだろうか。

そいつ等も、その風貌を見ると真面目に働いている者ではない。

私達を誘拐・監禁した者達が、愛想笑いを浮かべている。

なるほど。実行犯達が主犯グループに媚びへつらっている構図ということか。

そのゴロツキ達が『ボス』と呼ぶ存在がいた。


ボスと呼ばれている者の姿は私達と同じように手足や頭があるものの、全てが金属製で出来ていた。

十三都市を護るカルテット同盟の一翼。

———————『機械生命体』と呼ばれる者である。

生まれてくる機体は四足歩行のヒトデ型をしており、進化を遂げていく機体は人型の機械生命体になると聞く。

つまり、ゴロツキ達がボスと呼んでいる機械人間は、機械生命体の上位存在という者に該当する。

背が高くタキシードを身に着けており、紳士のような姿をしているが、その顔は卑猥に歪んでおり、凶悪性が滲み出ていた。

機械人間は品定めをするよう、私達へ至近距離に顔を近づけ、下品に笑いながら、恐ろしい言葉を口にしてきた。



「私の好物を教えてやろうか。それは人間の女をいたぶり殺すことだ。」



身震いがした。

この世に存在しないくらいの苦痛をあじわあされる予感がする。

この機械人間は、身体的に虐待を与えたり、精神的に苦痛を与えたりすることによって性的快感を味わうサディストだ。

全身から力が抜けていく。

心臓の鼓動が速くなり、全身の毛穴が緩んでいた。

女の一人があまりの恐怖に尿をもらしてしまい、その姿を見た機械人間は下品な笑い声を発している。

耐えられない。

私は人生をここで終えるべきかもしれない。

生きていればいい事があるという言葉があるが、それは嘘だということが証明された。

もう生きる希望はない。

深く、長い、死を誓うためのため息を吐いたその時である。

―――――――――ゴロツキ達が次々と吹っ飛ばされていく姿が見えた。

衝撃音が聞こえてくる。

何者かが誘拐犯達を殴り飛ばしているのだと直感した。

辺りが一斉に騒がしくなっていた。

ゴロツキ達が混乱し、怒号が飛び交いはじめている。



「誰だ。てめえ!」

「俺達が誰だか分かってやっているのか!」

「いい度胸しているじゃねぇか!」

「ぶっ殺されたいのか!」

「マジで殺すぞ!」



ゴロツキ達の視線を追いかけると、その原因となる存在らしき男がそこにいた。

――――――――――――チリチリ毛のイケメンがこちらへ歩いてくる。

身長は180㎝を余裕で超えているだろうか。

細身な体型でありながらも、しっかりと筋肉がついている。

一言でいえば、驚くほど格好いい。

周りにいるクソいきっているゴロツキ達とは学術的にいって異なる生物だろ。

清潔感があって、肌が綺麗。行動がスマートで、さりげない優しさが出来るタイプの男に見える。

イケメンの方は、ゴロツキ達の姿が目に入っていないのだろうか。

放たれている怒声に反応をすることなくファッションモデルのように歩いてくる。

ゴロツキ達はというと、威勢よく怒号を飛ばすものの、誰一人として攻撃を仕掛ける様子がない。

皆、チリチリ毛の男に対して完全に怖気づいている。

誰かが『鑑定』能力を発揮したのだろう。

機械人間のボスに対しその結果報告をする声が聞こえてきた。



「ボス。あの男。『catastropheカタストロフィ』の兵隊です。」



その言葉を聞いたゴロツキ達が一斉に静まり返った。

『catastrophe』。それは、4聖人が人類の敵として災害指定している存在だ。

信じられない。

あのイケメンが人類の敵だなんて。

ゴロツキ達は皆腰を引けており、機械人間のボスへ視線を送っている。

どす黒い表情をつくっていたボスについても、真顔に戻っていた。

そしてようやくといった感じで叫んだ。



「敵襲だ。敵襲。Catastropheが攻めてきたぞ。戦争だ。迎撃態勢をとるんだ!」



私達を誘拐・監禁してきたゴロツキ達は、波が引くように一斉に逃走を開始している。

私達は見捨てられたかたちになっているが、内心では、『助かった』という気持ちが湧き上がってきていた。

あの男が人類と敵と呼ばれる災害だとしたら、すぐに逃げるべきなのだろう。

だが、私を含めた女10名は、誰一人そこを動かなかった。

イメメンが近づいて来ている。

命が危険な状況にもかかわらず、全員が身だしなみを整え始めていた。

自分でも不思議だ。

命のことを心配するよりも、イケメンに女として見られたい気持ちの方が勝っていた。

そして無我夢中で私達は叫んでいた。



「助けて。私達を助けてください!」



まさに絶対絶命の危機に現れたイケメンの王子である。

不謹慎であるが、私は救ってもらい、この後相思相愛の関係になることを妄想していた。

偶然か。イケメンと視線が重なった。

自身の体が火照り始めている。

呼吸が出来ない。

心臓の鼓動が聞こえてくる。

その時である。私の夢をぶち壊す存在が姿を現した。

イケメンの横に青髪の男が現れ、私達の言葉に返事をしてきた。



「お嬢さん達。大丈夫ですか。俺が助けます。もう少しだけ辛抱して下さい。」



その青髪の男がこちらへ走り寄ってくる。

その容姿は村人A。

助けてくれるのは有難い。

だがしかし、お前、誰なんだよ。

見たところイケメンの仲間のようだけど、どこから湧いてきたんだ。

――――――――――助けを求めた相手はお前じゃない!

私の夢をぶち壊さないでくれ。

空気が読めないのかよ。

そもそもだが、ゴロツキをぶっ飛ばしたのはお前じゃないんだろ。

何で、そのお前に助けられなければならないんだ!

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