君が居るこの視界の、美しきことよ。
「とりあえず、シャワー浴びよ。あと……ドラッグストアで包帯とか買った方がいいよね」
「ん!」
痩せこけてボロボロのトシキくんと手を繋いで歩く。
夢にまで見た『トシキくんと手を繋ぐ』という憧れがこんな形で叶うとは思わなくて、いくつか爪の欠けた棒切れみたいな指と、カサカサした手のひらの感触を宝物みたいに感じた。
トシキくんの靴はどこかへ行ってしまっていたから、裸足だけは回避しようと僕の靴下を貸した。今更の話かもしれないし靴下では頼りないが、震災などのときにも割れたガラス等を踏んでも大丈夫なように家でも靴下を履いておけ……みたいな話をどこかで聞きかじった、ような気がする。
どうにせよないよりはマシだろう。
……僕がトシキくんにできることは、いつも少ない。
ホテル街に入り、途中出入りが可能なラブホテルを選んで一泊でチェックインした。
「僕、包帯とか絆創膏とか買ってくるね。ひとりでシャワー浴びれる?」
「うん!」
「ついでにコンビニで食べられるものも買ってくるけど……トシキくん、何か欲しいものある?」
「アルマジロ!」
「あー……」
頑張るねと苦笑いして、上着を羽織る。
トシキくんに背を向けることがやたらにつらかった。
彼から目を離すことがなぜだか恐ろしくて、ベッドに倒れ込んで手足をぱたぱたさせるトシキくんを棒立ちで見つめる。
「いーちゃん」
ベッドのシーツをさんざんめちゃくちゃにした彼はふとこちらを見て、老けたような子供のような、こけた頬で笑った。
「髪、金髪になっちゃってさ。伸ばしてくくってさ。うふふ、かっこいい人になっちゃったね」
「……」
「僕はねえ、ずっといーちゃんが好き。前のいーちゃんも、今のいーちゃんも、好き!」
「……トシキくん」
あのね。
あのね、トシキくん。
僕もずっと君が好きなんだよ。
こんな姿になった今の君のことも、どうしてか、ずっと前と同じように好きなんだよ。
信じてくれる、かなあ。
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