追憶・先週のこと


 鉄パイプで頭を殴った。

 動かなくなったけどちゃんと死んだか分からなかったから、生き返ったら嫌だなと思って胸を刺した。

 まだ安心できなくて、用心用心と唱えながら腹も刺した。

 ぐ、と力を込めて腹の切り傷を下の方まで広げると腸が飛び出してきて、気持ち悪かったし元に戻すのも大変だから、次からはやめようと決めた。

 振り返ると、縛っておいたもうひとりの彼女は嫌だ嫌だと言いたげに首を横に振った。

 それはもう可哀想になるほど泣いていて、薄暗い明かりの下で涙と鼻水がてらてら光っていた。

 ガムテープで口を塞いでいるから、鼻が詰まっていると苦しかろうなあと思った。

 さっき拾った鉄パイプと、実家からくすねてきた肉切り包丁を見せて、どっちがいい、と問う。

 鉄パイプを指さす。嫌だと首を横に振る。

 肉切り包丁を指さす。こちらも嫌であるらしい。

 僕はしばらく考えて、どちらも嫌なのか、と困り果てて、またしばらく考えて。

 彼女の鼻っ柱を拳で殴った。

 漫画だと「バキッ」というようなオノマトペが書かれるけれど、実際は「ゴ」というシンプルな打撃音と、鼻血が飛び出す「ブ」という音が同時に鳴ったような感じだった。

 人中とか、みぞおちとか、本で見たことのある人間の急所を中心に殴っていって、しばらくは電流でも走っているみたいに痙攣していたが、やがてそれも収まった。

 死んだかな、と思ったが、眠っているように見えなくもなかったので結局鉄パイプで頭を何度か思い切り叩いた。

 血に混じって半透明のゼリーみたいなものが頭から飛び出して、これが脳みそかしらと試しに触ってみた。ぬるぬるしてちょっとぶにぶにしていて、食べたことはないがところてんってこんな感じだろうと思う。

 それから、ええと。

 頭の潰れた死体と、腸の飛び出した死体をえいやこらと頑張って運び出し、山に埋めた。

 人を殺すより深い穴を掘る方が疲れるし大変だし気が狂いそうな作業だ。

 肺がちぎれそうなくらいに息を切らしてやっとの思いで埋めて、その頃には辺りはもう朝で。

 持ってきた服一式に着替えて、ちょっとした焚き火キャンプついでに血と土でどろどろになった服も燃やして。

 持参したすじこのおにぎりを食べたらちょっと眠くなって、土の上で三十分だけ眠って帰った。

 起きてからバイト先に辞めますと電話をかけて、相棒のベスパに跨って。

 あとはなんか、どうとでもなれという気持ちが強かった。

 捕まりたくないとも、罪を償いたいとも思わなくて。

 ただちょっぴりの申し訳なさがあった。

 くすんでぼやけた、なおも輝かしい記憶の中の彼に対して。


 トシキくん。

 トシキくん、ごめんね。

 君を愛したいーちゃんは、人殺しになってしまいました。


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