潮風の国⑤
という事で、先の番頭さんと、店主だというクリアさんに同席してもらったわけですよ。彼の主張を説明する。
…異世界人なんて、ふざけてますよね~、なんて笑いを取ろうとしたのだけれど。
「異世界人なら、言葉が通じなかった理由も分かりますな」
初老のクリアさんは随分と頭のやわらか~い人だったらしい。確かに、説明はつくんだよね。聞いた感じ、ミルドガルドの過去と現在で使われている全ての言語を試したみたいだし。別の世界の人、くらいで丁度はいい…のかしら?
「で、この方の処遇ですけれど」
「おではこれのつきましれ!」
日本語で喋らないで、お願い。俺はこの人についていく、ですって。
「…タケシ君はこちらでお仕事をされているようですし、連れて行くわけにもな~と」
こうやって異国間交渉で齟齬が生まれるんです。覚えておいて損はないよ。
「いやいや、これも何かの縁でしょう。タケシ君としても翻訳者と同行した方が安心に違いない」
ですよね~、と言ったら負けなの。負けだから。
そもそも、なんでアタシがこの訳の分からない男と同行しなきゃいけないのよ!
「いや、でも、アタシら流浪の旅人ですし…」
「もしや、お宿をお探しで?」
「探してま~す」
ベル、余計なことを言わないで。
「では、今晩は私共の所でお泊りくださいませ。丁稚部屋が一つ空いております。夕食もお付けしましょう。私どもの海鮮は異国の方にもご好評でして。魚を生で食べる、カルパッチョと言うのが絶品でしてな」
「噂で聞いた! 高いんでしょ?」
ベ~ル~?
「すこーし値は張りますが、なぁに依頼解決の御礼ですよ」
「いえいえ、ギルドに頂いたお金以上を頂くわけには…」
「なになに、解決して頂いたお気持ちですから、無料で」
「無料だって! ペルル!」
「だ、でえにねれんで?」
タケシも黙ってて!!
「ま、まずはギルドに報告してから…」
鐘が鳴った。六つ。
六つ!?
「あ、十八時」
「えええええええ!!」
十八時! ギルドが閉まる時間! やだ!
「ペルル」
ベルがアタシの肩に乗った。
「野宿は、嫌だよ」
「…はい」
「ではでは、タケシと皆さんの旅の無事を祈って、盛大に宴と致しましょう!」
ぽん、と店主が手を叩く。番頭がへい! と元気よく答えた。
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