第2話 全裸追放
服、衣類、お召し物。言い方は何でもいいが、ソレは生活の三大要素“衣食住”に数えられる代物だ。
この世界において、服は倫理観で着られていた。というのも、魔王軍との戦いに明け暮れているこの世界では、法が機能していないからだ。
よって、この世界では
「服着ないとか……はっず」
「いや、普通に着るもんでしょ」
「え、なに? 変態なの? 露出狂?」
という考えのもと、みんなが服を着ていた。
だが、ラスタークは違った。
「全裸……全裸の何が悪いってんだよ!」
と勇者にブチギレているのだ。
勇者は顔を赤らめながら叫ぶ。
「悪いだろぉ! いろいろとぉ!!!」
至極まっとうな言い分だった。そりゃあ服は着てもらいたいだろう。
***
と言う訳で、俺は最悪な気分になっている。せっかくの酒が台無しだ。
「勇者、よく考えても見ろ。お前は服を着なさいと習ったか!? そう、習っていないだろ!!!」
「習うよ! 習ってなくてもどっちみち理解するよ!」
????? 本当に習った記憶がない。
「な、習うのか!? ……俺は習わなかった」
「んあああああ!!!! そんな事はいい! まだ間に合うから服を着てくれ! まじで! 頼むから!」
ここで服を着れば、まだ勇者パーティーに残れる。まだ地位も名誉も誇りも保てる……なら考える余地はないようだ。
「——だが断る」
地位も名誉も誇りも糞くらえ。そんなものは、その辺にいるトランクス派に食わせておけ。俺は服を着ない。
「バカ! マジでバカ!」
目の前で勇者がわめいている。
どうにかして俺を引き留めようとしている事から、俺の戦力を評価していることが伝わってくる。ふっ……少しは嬉しいもんだな。
「馬鹿でも構わん。それが————俺の歩む道だ」
……決まった。あまりにかっこよすぎる。
「それっぽく言ってるだけで、全裸なだけだぞ!」
勇者はあきらめたようで、がっくりと肩を落とした。
「もう良いよ……代わりの
勇者にここまで言わせた男がいただろうか。いや、俺だけだろう。
「あぁ。また全裸を受け入れる覚悟ができたら、また声をかけてくれ」
勇者は中指を立てながら酒場を出ていった。哀れだ……。
そんな勇者を見送り、今後のことを考える。
「さて……アルガンテにも居づらいし、とりあえず聖都にでも戻っかな」
聖都とは人類最大の生活圏であり、人間世界の中心だ。簡単に言うと首都みたいなものになる。
聖都に戻って、また冒険者でも賞金稼ぎでもやろう。金が無いとどうしようもないからな。
あ、そうだ金だ。
「おやっさん、俺のツケっていくらだ?」
「本日分含めて、ざっと5万ルタくらいだな」
5万か……食費3カ月分はするな。まぁ払えはするが、これからを考えると重いか。……よし。
「じゃあそれを勇者にツケといてくれ。ちょっくら急用で聖都に行かなきゃならんくてな」
「……本当に? 冗談ではなく?」
「あぁ。頼んだぞ」
勇者パーティーの退職金代わりとして許してくれるだろう。
ありがとう勇者、ありがとう僧侶、ありがとう賢者、ありがとう騎士、ありがとう
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