腹ペコ天使さんとお腹を満たすだけっ。
白野さーど
第1話 天使が落ちてきた
「ハァ……ハァ……
額の汗を手の甲で拭うが、十秒も経たない間にまた汗が額に浮かんだ。
こんなことなら、タオルの一枚でも持ってくればよかった。
ふとそんなことを思わせる暑い七月も、中旬に差し掛かると飲み物がなければ生きていけない。
「……っ……んっ……ぷはぁあああ〜……!!」
つい先ほどコンビニで買ったばかりのエナジードリンクの缶の中身が、あっという間に喉を通っていった。
三十度後半の気温の下、一人でトボトボ帰るのも楽ではない。
――ああぁぁぁ……どこかに都合のいいドアでもないかなー……。
と心の中でボヤいていると、前方に制服姿の二人組が目に入った。
「………………」
俺は
「…………はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――…」
時間にして軽く三十秒を超える長いため息がこぼれた。
十五時という時間帯的に、学生がこの辺りを歩いていてもおかしくはない。
――あの二人……間違いない。同じクラスの奴らだ。
実家から離れた高校に通うために一人暮らしを始めてから、三カ月。
片や学校帰りの寄り道を楽しみ、片やコンビニ帰りで一人寂しく帰る……。
「……フンっ」
――ちっとも笑えねぇーな……。
「はぁ……。なにか面白いこと、ねぇーかなー……」
長いため息をこぼしながら空を見上げた瞬間、空に…………羽が広がった。
――――…え。
まず感じたのは、背中越しに感じる地面の熱さと背中に走る痛み――――そして、
――い、息が……息が……苦しい……ッ!!
顔全体がなにかに圧迫され、呼吸ができない状況に陥っていた。
「むっ……んんッ!!」
なにが起きたのか把握できないまま、半ばパニック状態で手足をバタつかせると、
「――あ、んっ……♡」
どこからか、喘ぎ声に似た色っぽい声が……聞こえた気がした。
――というか……。
手のひらには決して収まらないその大きくて柔らかい物体は、適度なハリと弾力によって、沈ませた指を優しく押し戻す。
――なんだ……これ……。
その初めての感触に魅了されていると、視界の端に微かな光が見えた。
「――んんッ!! あ、あれ……ここは……」
また声が聞こえたかと思えば、上から押さえつけていた謎の物体がゆっくりと顔から離れた。
「ッ――ハァッ!! ハァッ!! はあぁぁぁー……死ぬかと思った……って」
ありったけの空気を吸い込み、ホッと息を吐くのも束の間、俺は覆い被さる体勢でこちらを見下ろす“美女”と目が合った。
絶世の美女という言葉は、彼女のためにあるのだと思ってしまうほどに、神秘的な淡い光を纏う彼女に、俺は魅了された。
さらに、白を基調とした装いもあって、彼女はまさに…――――“天使”だった。
「…………っ」
――うわっ、でっか……。
俺の目は正直なようで、これでもかと言わんばかりに強調している二つのスイカを…――――あれ、ちょっと待てよ? じゃあ、さっき触っていたのって……もしかして……。
ふと手でモミモミする仕草をすると、
「あ、ああ……ああああっ……」
謎の美女は頬を赤く染めながら上体を起こし、手を振り上げた。
その光景は、傍から見れば地面に押し倒した男の上に跨り“大きなスイカ”を触らせている女性の図で――
「いっ……いやぁぁああああああああああーーーーッッッ!!!!!」
「えっ…――ふげぇ――ッ!!」
目にも止まらぬ速さの平手打ちによって、俺の意識は…――――途切れた。
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