第30話 選択肢はないってことか
「あのぉ、凄くありがたい話なのですが……」
才能があるなんて言われたのは生まれてはじめてだ。正直すごく嬉しい。
でもヴァジュラ使いになるってことは、さっきみたいな戦いをするってことだ。それはつまりいつ死んでもおかしくないってことで……。
「もしも、もしもですが……そのスカウトを断ったら、ボクはどうなるのでしょうか?」
「ヒビワレとみなし、粉砕する」
岸森くんが口を挟んだ。
「……それって殺されるってことですか?」
「まぁ、君が今後、ヴァジュラに意識を奪われて、ヒビワレ化する可能性はゼロではないからね。粉砕は大げさだけど、保護施設に護送して、厳しい監視下におかれることは間違えないかな」
それは死ぬよりキツイ。
「……諦めなさい。その代わりヴァジュラ使いになれば、ある程度は自由に行動できるから。学校だって今まで通り通えるし、任務を果たせば結構な報酬も出るし」
選択肢はないってことか。
ボクは夜野さんの申し出を受け入れた。
話が終わった後、ボクは軟膏を渡された。洗面台で顔を洗った後、それを塗って数分たったらだいぶヒビは薄まっていた。
そして、ボロボロになった学校指定の制服とYシャツ、そしてコートと同じものを夜野さんから渡された。
「その格好で帰ったら、ご家族の方に怪しまれるからね」
「ありがとうございます。でもこんなにすぐ手に入れるなんて凄いですね」
「業者に知り合いがいてね。デパートで君の姿を見てすぐに発注したんだ」
このまま家に帰ったら、母に何を言われるか心配だったので、少し安心した。
興奮していたせいか、ヒビの痛みはあまり感じなかった。
さっきの話を自分なりに整理すると……。
ボクが閃輝と呼んでいた光の粒は「ヴァジュラ」と呼ばれている。
ヒビワレはヴァジュラの影響で意識を失い人間を襲う化け物。
逆に、ヴァジュラに覚醒しても意識が残っている人間はヒビビト。
夜野さんたちはヴァジュラ使いで、組織名はヴァジュランテ。
なんかややこしい。
正義の味方ってのはどうかと思ったけど、人間を襲うヒビワレと戦っているというのなら、間違ってはいないか。
※
ネットで調べたけど、ヴァジュラとは仏教の言葉で“金剛”という意味らしい。
金剛とは仏教の言葉で「最も固い金属」という意味で、ダイヤモンドも金剛石と言われている。
元々はインドのヒンドゥ神話に出てくる雷の神様・インドラが邪竜・ヴリドラを討ち果たすために用いた雷の武器。
そこから由来して、仏教の宝具は金剛杵と言われている。
ピカピカと光る閃輝はたしかに雷のようだ。
顔にできたヒビ割れを見てボクは雷を連想した。
夜野さんによると太古の昔から人間はヒビワレと戦ってきたそうだから、ヴァジュラの存在が先にあって、後から神話が生まれたのかもしれない。
ちなみにヴァジュラは、ダヴィーチャという聖なる仙人の“骨”を砕いて作ったらしい。
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