第10話 動かしたり集めたり

 ◆

 

 閃輝のことばかりを考える日々が続いた。

 

 授業が終わると、すぐに家に帰った。

 受験勉強はサボっていたけど、アトピーのことがあったからか、母は何も言わなかった。

 

 たぶん、最初から何も期待されていないのだろう。


 元々、趣味らしい趣味もなかったし、連絡を取り合う友達もいなかった。


 時々、ドリーからLINEが来たけど、軽くスタンプを返して、自分からはほとんど送らなかった。クラスの女子の目も恐かったし。


 学校にいる時も、閃輝のことで頭がいっぱいだった。

 ただでさえわからない授業はますます耳に入らなくなった。


 一度、担任の本多から「授業に集中しろ!」と怒られたが、どうでもよかった。



 ◆◆


 

 閃輝に対する意思の伝達が可能だとわかると、今度はどれくらい「動かせるのか」を試すようになった。

 

 例えば、100メートル先のポイントを指定し、そこに向かって「動け」と閃輝に念じたらどうなるのか? 逆に100メートル先にある石に「動け」と念じたら自分の元まで戻ってくるのか?


 結論から言うと、それは可能だった。


 でも「動かす」距離が伸びて、念じる時間が増えるほど、集中力が必要になった。


 それはとても疲れる行為で、長時間の集中によって頭痛が起きることも度々あった。


 筋トレすると身体が疲れて動けなくなるように、極度の集中によって疲れると頭も動かなくなった。


 でも、腕立て伏せや腹筋を繰り返すと筋肉がつくように、脳も使い続ければ閃輝をコントロールための精神力――“心の筋肉”みたいなものが鍛えられていくのを感じた。


 100メートル先の閃輝を手元に集めるのに、以前は一時間かかった。

  それがやがて50分になり40分になり、一ヶ月後には急げば10秒、通常なら1分で集められるようになった。

 

 「動かす」のに比べて「集める」には、より強い集中力が必要だった。

 でも、同じことをずっと考え続ける必要がなかったので、気持ちはラクだった。


 ただ、ラクといっても脳の疲労は激しかった。

 

 そのせいか、ご飯を食べる量が増えた。

 特にチョコレートのような甘いモノが欲しくなる回数が増えた。


 食べすぎて太りそうなので、ジョギングと筋トレも始めた。


 体もいっしょに鍛えた方が、閃輝に対する集中力も上がるのではないかと思ったけど、これは正解だった。たぶん、身体はすごく健康になってると思う。


 突然、走りだして母は驚いたけど、勉強の気分転換だと言ってごまかした。


 明確な目的があると、こうも人は変わるのか。


 長続きした試しがないジョギングや筋トレが全く苦にならないのは、この小さな積み重ねが、やがて閃輝の操作能力の向上につながるという確信があるからかもしれない。

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