第63話  悪の崩壊

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「美沙!良かったわね!」小南は気が付いた美沙に抱きつきながら言った。

「先輩!ボイスレコーダーは?」

「見つかってないわ!クラブJにあった方には何も録音されていなかったって、刑事さんが」

「もう一つは、家の冷蔵庫の裏に箱に入れてガムテープで留めてあります」

小南は木村カメラマンと三木の二人に探しに行く様に頼んだ。

「糀谷専務は、美沙が救出された事を誰かに聞いて自殺してしまったわ」

「本体に被害が及ばない様にしたのですね!一億円は?」

「一億円って何?」小南が驚いた表情で尋ねた。

「その糀谷専務から一億円を強請り取った男が居るのです!」

「一億円を強請った?!」

「その男の仲間だと思われて私が捕らえられてしまったの!」

「誰なの?」

「多分小島部長だと思うわ、だって小南さん以外に今回の事を知っている人は部長だけでしょう?」

「そ、そうだわ!裏切られたの?私達?」

「多分利用されたのだと思います、あの倒産した十社の資料を手に入れて私達に調査させたのですよ」

「美沙が情報を掴んだので、逆にモーリスを恐喝したのね」

「多分そうだと思うわ、私入院なんてしていられないわ、糾弾しなければマスコミの使命が損なわれます!」いきなりベッドから降りる。

そこへ母の妙子が入って来て「美沙!何しているの?こんな夜に、まだ安静が必要ですよ!」

「そうだった!夜だったわね!小南先輩、本社に信頼できる知り合いはいませんか?小島部長の事を調べて貰いましょうよ」

「そうね、証拠を見つけないとね」


翌日、美沙を病院に残して小南達は名古屋に帰り支店長に相談する事にした。

支店長は名古屋に来る前は東京本社で仕事をしていたので、知り合いも多いだろうと考えたからだ。

翌日の新聞には小さくモーリスの糀谷専務が「心筋梗塞により死去」とだけ書かれていて、事件については全く報道されなかった。

心筋梗塞との病名が美沙には違和感があったが、モーリスの事件が表に出ると取引している企業も倒産してしまうのが見えるので、この報道に異論を唱えるのを敢えて控えた。

事情聴取でも美沙は一貫して、モーリスの企業自体は悪くは無く、亡くなった糀谷専務と松永部長、新和商事の裏の組織が手を組んで不幸な企業を作っていたと話した。

松永部長は名古屋駅の新幹線改札口で、警戒中の警官によって逮捕され大阪府警に移送された。

その時まだ松永部長は、糀谷専務が亡くなった事は全く知らなかった。


警察が精神病院に来た時、地下室に向った溝端女医は糀谷専務に連絡していた。

連絡を受けた糀谷専務は、会長にこの件についてお伺いを立てた時「君の処で全てを止める様に!」と言われ自殺を図ったのだ。


同じ様に新垣社長、村中工業に隠れていた桐谷も逮捕されて、二人とも罪を認めたが全て糀谷専務の指示だったと自供した。


勿論松永部長も同じ様に言ったが、既にモーリスは昨日付けで松永部長の懲戒解雇処分を発表していて、社長のお詫び会見が午後から手回し良く行われ、全ての罪を糀谷専務に押し付けて、被害を最小限に食い止め記者会見は終了した。


病院でその様子を見ながら、歯ぎしりをする美沙。


だが、このモーリスよりも悪い奴が小島部長かも知れないと思うと、もう美沙の我慢は限界に達していた。

同様に怒りに燃えていたのが安田だった。ウィークジャーナルにモーリスの暴露記事が掲載されなかったのだ。翌週になり小島部長に安田から電話があった。小島は、モーリスの裏組織が安田を始末すると思って安心していたので驚いたが「社員が人質になったので、掲載出来なかったのだ!次かその次には必ず!」と弁解をした。それが急転直下安田を始末する前に裏組織が捕まり意外な展開となり小島部長は焦った。

しかし、モーリスが一億の被害届けを出す筈も無く、一億円強奪事件は完全に闇の中だとほくそ笑んだ。

記者会見の翌日、美沙が「このままでは一億を手に入れた人間だけが得をするわ!許せない!」と朝から病室で苛ついて両親が困り果てる。

安田もモーリスの記者会見を見て、何かが社内で起った事は確かだと思って再び小島部長に電話をしていた。

小島部長にとって目障りな存在がこの安田と救出された赤城美沙だ。

美沙がモーリスに捕らわれていたのなら、一億円強奪があったのを知っている可能性が有る。そうなれば犯人は俺だろうと思っているはずだ。

小島部長はこの二人の始末を真剣に考え始めていた。


小南は逆に名古屋支店長に小島部長の人となりを聞き、東京の本社で信頼出来る人を紹介して貰えないか頼んでいた。

支店長は赤城の誘拐監禁事件と関係が有るのか?と何度も尋ねたが小南はもう少しはっきりしてから話すと誤魔化した。

この事実が表に出るとウィークジャーナルも痛手を負うことになるので、小南も迂闊に話す事が出来ない。

紹介して貰った女子事務員の加納は会社では古株で、殆どの事に精通している女性だった。

小南は小島部長の行動を細かく聞くと「何か有るでしょう。月曜日休んでいたのだけれど、火曜日は上機嫌で気持ち悪い位だったのよ!それが水曜日になると独り言が多くて、携帯電話を受けてから落ち着かないのよ!何かあったの?」

「携帯電話?」

「時々掛って来るのよ!するといつも落ち着きがないのだけれど、水曜日は異常なまでに落ち着きがなかったわ」

「電話の相手の人は誰か判りますか?」

「一度相手の名前を電話で言いそうになって、私の顔を見た事が有るのよ!私と目が合ってから気まずそうにしていたわ。確か「やすっ」って言っていたわよ!」

「ありがとうございます、それだけで充分です!」

小南は電話の相手が安田俊幸だと確信した。

早速美沙に電話をして、予想通り小島部長は安田さんから情報を得て記事にする事を考えたが、自分達の取材から、モーリスを強請ることに気が変わったのだと思うと言った。

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