第38話 説得工作
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美沙は、何とか落ちつき、気を取り戻して状況を整理した。
村井課長は、モーリスが悪い事をしていると思っていないから、何を話せばいいのかわからないでいる。
この家を誰かが見張っているわ、。私がここに来た事を寺崎母子は見ているだろう。
警察が動くと、直ぐに犯人は逃走して娘さんが危険な状況になる。
どうすれば良いの?と思っていた時、村井課長宅の電話が鳴った。
美沙をその場においたまま居間にいる二人が移動して電話を取った。
「今、家に行ったのは刑事?違うわね!ウィークジャーナルの記者ね」
「娘を誘拐した女か?ここに居るのはお前の仲間の記者さんだ!娘を解放しなければ仲間の命を貰う!どうだ?交換しないか?」
「馬鹿じゃないの?その女を殺しても罪が重くなるだけよ!それにその女がどうなろうとこちらには関係ない。今までのモーリスの悪行をその記者に告白して、早く娘さんの顔を見た方が良いわよ!」
「何を告白しろと?」
「自分がこれまでモーリスで行った悪事よ」
「その様な事は何もしていない。話す事は何も無い!早く茜を解放してくれ!」
加代は自宅を飛び出して、近所を見廻しとぼとぼと帰ってくると「誰も居なかったわ!犯人は何処?」と呟き項垂れた。
「電話が切れた!」
「会社に相談しましょうか?」
「馬鹿な!何を相談するのだ!子供が誘拐されました!助けて下さいと言うのか?」
美沙が「私が警察に連絡しなければ、ここに刑事が来ますよ!携帯返して下さい!」と大きな声で訴えた。
「近くに犯人はいるのは間違い無いわ」
「私が思うには、先程電話してきた女性は寺崎志乃さんよ!」
「犯人を知っている。仲間に間違い無い!」
「馬鹿な事を!犯人の名前を教える仲間はいないでしょう!」
「貴方!そうよ!この記者さんは仲間ではないのかも」加代が横から言った。
「ようやく信じてくれた?」安堵の表情になる美沙。
「寺崎志乃って誰だ!そんな名前は聞いた事もない!」
「貴方の女なの?」
「冗談は止めろ!叔母さんの声だったぞ!」
「貴方が昔手を出した女じゃ?」
「馬鹿な事を!安田じゃないぞ!取引先の女に情は無い!」夫婦で言い争うっている。
「早く私を解放してください!警察が来れば娘さんが本当に殺されるかも知れないわよ!」
「信用出来ない!携帯を使える様にするから、警察に連絡しろ!」
手首のガムテープをハサミで切り裂いて、携帯を手渡す。
「変な事をすれば、ハサミで突き刺すからな!」
手が自由になったが足首が動かないので、美沙は逃げ出すことができない動けない。
三宅刑事の携帯へ繋がると「やはり誘拐です。犯人は寺崎母子の様ですが、村井さんの家を見張っていると思われるので近づくと危ないと思います!」
「判った分かった!大阪府警にはその様に連絡する!赤城さんは大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です!」
それだけ話すと村井課長は携帯を取り上げて通話を強制的に終らせた。
「電話をしたのでこれで警察は来ないな!私には寺崎志乃という女が誰で何を言っているのか判らない全く理解できない」
「寺崎の名前に記憶が無いのですか?」
「全く記憶に無い!会社にもその様な名前の社員はいない!」
「多くの悪事を行っているから、記憶にも残って無いのでは?」
「私がいつ悪事を働いたのだ!会社の指示に従って仕事をしているだけで、人に恨まれる様な事はしていない!」
「寺崎の名前も記憶に無いのは哀しいですわね!」
「教えてくれ!寺崎って誰だ!」
「名古屋の寺崎でも判らないのですか?」
「名古屋の寺崎?名古屋・・・寺崎・・・」真剣に考えている村井課長は「寺崎食品か?」と言った。
「ようやく判った様ですね思い出しましたか!」
「貴方!寺崎食品に何をしたの?早くこの記者さんに話して茜を返して貰いましょう!」
加代が必死で詰め寄る。
「何も無い!確かお爺さんが入院されてから会社の経営が苦しくなって、倒産してしまい我社も大きな損害を被った。私も責任を負った様な記憶が有る。
「被害者は貴方なの?それって逆恨み?」
「そうだ!お爺さんが病気になったのがモーリスの仕事のせいだと恨んでいるのだ!」
「貴方!どうするの?茜は返って来ないわ!」泣き崩れる加代。
唖然とした表情で言葉を失う美沙。
今は娘さんの救出が第一と考えた美沙は「今度犯人から電話があれば私に代わって下さい!取材が終ったと伝えます!そうなれば子供さんは返えしてくれると思います」
「その様な事信じられるか?」
「私がここに居る事は既に知っています!私が上手く話しますから任せて下さい!」
「貴方!この記者さんに話して貰えば茜を返してくれるかも知れないわ!お願いしましょう!逆恨みをされているなら、説得しか方法は無いわ」
「私が寺崎さんを納得させるように様に話しますから、絶対に口出ししないで下さい!そうで無ければ茜ちゃんは帰って来ませんよ!」
「そうか分かった!仕方が無い!赤城さんに頼むしか道は無さそうだ!」
既に大阪府警が村井課長宅半径一キロ以内を私服の刑事で取り囲み、いつでも犯人を逮捕出来る態勢が整えられていた。
三宅刑事から一報を受けた時点から行動は開始されていた。
足のガムテープも外された時、村井課長宅の電話が鳴った。
「もしもし!」
「ウィークジャーナルの記者に全てを告白しましたか?」
「もう充分喋った!子供を帰してくれ!寺崎食品さんには申し訳無い事をした!頼む子供を帰してくれ!」
「そこにいる記者に電話を替わって!」
予想通りの展開に加代の表情が和らぐ。
受話器を美沙に手渡す村井課長が「宜しくお願いします」と軽く会釈をした。
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