20世紀初頭のバレエダンサー、ニジンスキー。その名前は聞いたことがあっても、詳しい生涯は知りませんでした。天才と謳われながらたった3年間の活動で精神を病み、バレエ界から消えたダンサーの軌跡を、同じくウクライナ出身の「舞いの神」セルジュ・リファールの目を通して語っていくお話です。
ニジンスキーを追いかけつつ、同時にリファール自身のバレエ人生の物語としても非常に興味深いです。ウクライナからパリの大海原に飛び込み、時代の波にあおられながらバレエ界を支えたリファール。当時の空気を再現するような筆致によって、読者は彼の生きたオペラ座へ、パリへと誘われます。
バレエ団創設者のディアギレフ、ニジンスキーの妻ロモラなど、彼らを取り巻く人間模様も色濃く描かれており、人と芸術、エゴ、愛情などが随所に浮き彫りになってきます。
ニジンスキーは最後に何を求めていたのか。リファールが守ろうとしたものは何か。芸術家の前にひとりの人間である彼らの、血の通った物語。
これは、埋もれては「絶対」にいけない名作です。ニジンスキーとか聞くと「競走馬」とか思い浮かべちゃう人多いと思いますが、違いますよ。「ニジンスキー」のファンの馬主が「ニジンスキー」と名前を付けたんですよ。
私はそれを知識として知っていて、ニジンスキーが発狂したことも知っていたのですが、この物語は、その真相に迫ります。そして発狂したニジンスキーを再び舞台に戻すための復活を目指した物語です。
史実では、、、ってまぁ、野暮はやめましょう。というか、史実を変えてもいいんじゃないかな?とも思っちゃいますが、ノンフィクションとして、この完成度の物語は、カクヨムではあまり見ないので、史実として書いて欲しい気持ちも半分あります。
とにかく、この物語は素晴らしいです。ニジンスキーが「なぜ」天才と呼ばれていたのか?ダンスの曲の背景やその特徴等を完璧に説明するあたり、作者の知識の非凡さを感じます。書籍化したら間違いなく私は買う一冊になると思います。