#235 盆終わり
「さ、上がって」
「お邪魔しまーす」
私は友人を連れて帰宅した。
一人暮らしの家に友人を招待するのはこれが初めて。今までは外で遊ぶことが大半で家に招待することがなかった。それが今回は一緒に見たい映画があるので、こうして家に呼んだという訳だ。友人の家ではないのは、単にテレビがないため。私の家には実家にあったテレビを一台貰っている。小さいけれど一人暮らしには十分なサイズ。まあ、二人で見るにしても、見にくいことにはならないはずだ。
「へー結構綺麗に整頓されてるのね」
「そりゃママによって掃除力を叩き込まれてますから」
「何よ、掃除力って」
いやほんと、実家で暮らしていた時ママに言われて何度も家の掃除を手伝わされたことがある。そのおかげで、私は週に一回は必ず掃除をしないと気が済まない質になったのだ。散らかっていると落ち着かない。これにより、一人暮らしあるあるの汚い部屋を回避できている。この点は感謝しなくてはいけない。
「テキトーに座ってて。飲み物持ってくから」
「はーい」
戸棚から私と友人のコップを用意して、冷蔵庫からボトルを取り出す。
ついでに氷も入れておこう。
「お待たせ〜」
「ん? あんた、なんで空のボトルなんて持ってきてるの?」
「これ? 違うよ、ちゃんと中身入ってるよ」
「え?」
怪訝な目で私を見てくる友人。
全く、空のボトルだなんて失礼しちゃうな。
「これはね、今自分が飲みたい飲み物に変化する液体なんだってー」
そう言いながら、私は自分のコップに液体を注ぐ。
色は黒。そして気泡。うん、これはコーラだね。確かに、映画を見るならコーラが最適だ。
「はい、ゆーちゃんの注ぐね」
ゆーちゃんのコップに注がれる液体。
同じく黒。
「ゆーちゃんも同じだね。コーラ飲みたかったんだ」
「……え? 何言ってんだ? アタシには何も見えないんだけど」
「何言ってるの? ちゃんとコーラが注がれてるよ」
「…………」
「それにこのコーラすごいんだよ。炭酸が強いのに、全然ゲップが出ないの。一気飲みだってできちゃうんだから」
グビグビとコーラを一気に飲み込む。
うん、喉がばちばちとするけれど、これがたまらない。爽快感を与えてくれる。
「…………」
ゆーちゃんもコップを手に取り、一口のむ。
「……ねえ、やっぱり何も入ってないよ、これ」
「え?」
「ちょっと貸して」
強引にゆーちゃんは私の手からコップを取ると、一気に飲み込む。
「……うん、やっぱり何も入っていない。あんた、アタシを騙してる?」
「何言ってるの。私はちゃんと注いだよ?」
「注がれてねえよ。あんた、気は確かか?」
「…………」
「あんた、今見てるのは現実か? それとも空想か?」
ばちん、とテレビの電源が消えるように私の視界が真っ黒になった。
あれ? なんで? 私は……あれ? さっきまでゆーちゃんと一緒に……ゆーちゃんって誰? 私は誰?
「おっと、やっぱりまだいたか」
声? 誰?
「私は君たちの案内人。君は今迷子になっていただんよ。大丈夫、このお馬さんに乗っていけば、帰れるから」
お馬さん? その紫色の?
「そうだよ。ナスでできた簡素なやつだけど間に合った。次はちゃんと帰る時間守るんだぞ」
うん、ありがとう。
「さて、お盆過ぎたのに帰っていない迷子はまだいるかな〜?」
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