第4話 可愛いは正義

【無能力の子視点】 

 わんわんは、ちっちゃくて、可愛くて、ぬいぐるみみたいなの。

 全身真っ黒で、ボクの頭くらいの大きさ。

 もふもふで、柔らかくって、あったかい。

 耳もちっちゃくって、へにょって垂れてる。

 顔を近付けると、いっぱい舐めてきて、くすぐったい。

 でもね、地面に下ろすと、ぺっちゃんこになっちゃうの。

 後ろ足が、しっぽと一緒に伸びちゃってる。

 はいはいすると、後ろに下がっちゃうの。

「きゅ~んきゅ~ん」って鳴いて、助けを求めてくるのが可愛いんだよ。


「後ろに下がっちまうのは、子どもこっこだからよ。まだ、後ろ足のりがかないのよ」って、お兄ちゃんが言ってた。


 ボクが両手を差し出して助けてあげると、一生懸命登ってくる。

 抱っこすると、胸にしがみついて、すりすりしてくる。

「くぁ」って大きなあくびをして、くぅくぅ寝ちゃうの。

 口をもにょもにょ動かして、気持ち良さそうに寝るのが可愛い。

 夢の中で、ご飯を食べてるのかな。

 すやすや寝る息に合わせて、ぽんぽんが大きくなったり小さくなったりするのも可愛い。

 お兄ちゃんもにこにこと優しく笑いながら、わんわんを見ている。


「まだ、赤ちゃんだからな。寝るのが、コイツの仕事なのよ」

「そっかぁ、赤ちゃんなんだ」


 じゃあ、子守歌こもりうたを唄ってあげようね。

 いつだったか、ママが唄ってくれたお歌。

 優しかった、ママ。

 いつも、にこにこ笑っていた。

 大好きだった。

 ううん、今だって大好きだよ。

 だって、ボクのママだもん。

「抱っこして」っておねだりすれば「甘えんぼさんね」って、笑って抱っこしてくれた。

 ボクを抱っこしてゆっくり揺れながら、いろんなお歌を唄ってくれた。

「可愛い可愛い私の子、大好きよ」って言って、撫でてくれた。


 ねぇ、ママ。

 大好きなら、なんで捨てたの?

 ボクは、ママが大好きなのに。

 なんで、ママはボクが嫌いになったの?

「無能力の子」だから、嫌いになったの?

「無能力の子」じゃなかったら、ずっと大好きでいてくれたの?

 なんで、ボクは「無能力の子」なんだろう?

 ママのマネをして、わんわんに子守歌を唄う。

「可愛い可愛いボクのわんわん、大好きだよ」

 ボクは絶対、わんわんを捨てたりなんかしないからね。


 🌞


【魔女視点】

 子どもわらすが、魔獣まじゅう子どもこっこを拾った。

(※人間の子どもは「わらす」動物の子どもは「こっこ」)

 見た目はワンコだけど、狼族おおかみぞく魔獣まじゅうだ。

 子どもこっこなのに、一人前いっちょまえ遠吠とおぼえするからな。

 体の割に足がデカいから、将来大きくなることが分かる。


 こんだけ小さいこまいと、動くぬいぐるみよね。

 仔犬こいぬみたいで、とてもかわいいなまらめんこい

 子どもわらすも可愛がっているし、ワンコもなついたらしく、2匹がじゃれ合っているのは微笑ほほえましい。

 ホント、とてもかわいいなまらめんこいものは見ているだけでいやされるわ。

 かわいさめんこさが大渋滞して、オレの頬と唇の両端が上がりっぱなしなんですけど?

 いまだかつてないくらい笑いすぎて、顔面筋肉痛がんめんきんにくつうになるレベルなのよね。

 天才かな? 2匹そろって、かわいさめんこさの天才かな?

 かわいいめんこい子どもわらすとワンコには、誰も勝てない。

 つまり、「かわいいめんこいは正義」


 っつっても、かわいめんこかったから拾うのを許したワケじゃねぇぞ。

 ちゃんと、理由がある。 

 今までオレひとりで住んでたんだから、当たり前だけど人間の子どもわらすのおもちゃはない。

 いい年こいた男の家に、幼い子どもわらすのおもちゃがあったら怖ぇべや。

 オレは人間が、どんな遊びをするか知らないのよね。

 どうすれば、もがき苦しんで息絶えるかは、良く知ってんだけど。

「どうしたもんか」と考えていたところで、子どもわらすがワンコを拾った。


 そこで、ピンと来たのよね。

子どもわらすの遊び相手に、ちょうど良いんじゃねぇか」って。

 人間が考えた格言かくげんとして、こんな言葉がある。


・子供が生まれたら、犬を飼いなさい。

・子供が赤ん坊の時、犬は良き守り手となるでしょう。

・幼少期は、良き遊び相手になるでしょう。

・少年期は、良き理解者になるでしょう。

・そして青年になった時、犬は自らの死をもって、命のとうとさを教えるでしょう。


 なるほど、言いみょう

 ただし、これは「犬だった場合」の話よね。

 ワンコは、魔獣まじゅうだからな。

 子どもわらすが青年になっても、魔獣まじゅうは死なない。

 むしろ、人間の方が先に死ぬ。

 うちら魔の者まのものは、人間よりもずっと長生きだからな。

 まぁ、どっちが先に死ぬかなんて、そんなことはささいな問題よ。


子どもわらすの子守り相手が欲しかった」って、それだけの話。

 今は、立場たちば逆転ぎゃくてんしてるけど。

 眠るワンコを、子どもわらすが子守りしささってる。

 あんな幼いのに、子守りなんて出来んのか。

「ままごと遊び」のつもりかもしんない。

 ワンコが赤ちゃん代わりっつぅか、赤ちゃんそのものだもんな。

 あの年にして、父性ふせいが目覚めたか。

 何はともあれ、ワンコの子守りしささってる子どもわらすかわいいめんこい


 子どもわらすが、何かを口ずさんでいる。

 心地好ここちよい音の強弱。

 柔らかい音の高低。

 流れる優しい言葉。

 聞いていると、不思議と心が安らぐ。

 魔の者であるオレには、音楽なんて全然分かんねぇけど。

 子どもわらすが口ずさむものは、「良いもの」だと感じた。

 上手く表現出来ないけど、胸があったかくて、優しい気持ちになる。

 人間は道具を使わなくても、口で音楽を生み出せるのね。

 不可思議ふかしぎな生き物だわ、人間ってヤツは。

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