18話
「それで海風さんは、本当はあの草むらで何をしてたの?」
「え、急にどうしたの?」
オレには2つほど気になることがあった。
「本当はペンなんかを探してきてたんじゃなくて、別の目的があったんじゃないの?」
1つ目は海風が見せてくれたペンの土についてだ。
「おかしなことを言うんだね月波くんは。さっき見せたでしょ?」
確かに海風が見せたペンの先には土が付いていた。逆に言えば先にしかついていなかった。
「2階と言っても大した高さじゃないし、それにそのペンは草むらに落ちてたんでしょ?」
「そうだよ」
「でも、そのペンは地面に突き刺さるほど重くはない。それに草むらに落ちたなら衝撃が吸収されて、ペン先にだけ土が付いてるのは不思議なんだよね」
これがもしペン全体に土がついていたのなら、オレは海風の話を信じていた。いや、元から誰も信じていないからこそ見抜けたのかもしれない。
だから、わざとらしくペン先にだけ土がついているのは、オレたちを誤魔化すためにその場でつけたものだろう。
「と言うか、そもそも場所がどこであれ僕と桜井が2人でいたところで海風さんは普通に話しかけてくるでしょ?」
2つ目として別に海風はオレや桜井がどこで誰と話していようが気にするタイプではない。多少は空気を読んでいるが、オレたちが校舎裏に来たからと言って慌てて隠れるようなことをするはずもない。
「バレちゃったか」
これ以上騙すことはできないと判断したのか、あっさりと嘘を認めた。
「それで本当は何しに来てたの?」
あの場に隠れていたのには何かしら意味があるはずだ。海風に限ってないとは思うが、警戒するに越したことはない。
「内緒にできる?」
「僕が今まで誰かに秘密を話したことあった?」
「ないね、じゃあ話しても平気か」
海風からの信用も得ているようでオレたちを盗み聞きしていた理由を話し始めた。
「ある女の子からね、桐生くんと鈴ちゃんのことを見張って欲しいって頼まれたんだよね」
海風はオレに耳を貸すようにと右手でクイクイとしてきた。周りの人に聞かれるのはまずいことなのだろう。
オレは耳を寄せると、小さな声で囁かれた。
「あのね、桐生くんのことを好きな子がいるんだけどね、桐生くんが鈴ちゃんを呼び出したのを知ったみたいで、何を話しているか探って欲しいって言われたんだ」
つまり、こういうことか。桐生には好きな女子がいて桜井に相談を持ち掛けたけど、桐生のことが好きな他の女子が海風に2人の様子を探るように頼まれたということか。
……意味わかんね。というかそれよりも、
「めんどい……」
つい思っていたことがポロっと出てしまった。海風がそれを聞き逃すことはなく、
「確かにおかしな話だよね」
海風自身も自分で何をやってんだかと行動を見直して笑いだした。
「それで、海風さんに頼んだ人にはありのままの話を伝えるの?」
実際は桐生と桜井の間にはなんの問題もなかったが、桐生にとっても海風に頼んだ女子にとっても、桐生に好きな人がいることを伝えるのは問題がありそうだ。
「ううん、特に問題はなかったよって伝えるだけかな」
「まぁ、そうだよね。相談してきた子に桐生には他に好きな人がいるみたいなんて伝えるのは憚られるよね」
桐生の想い人が桜井じゃなくて安心したのも束の間、他に好きな人がいると言ったら相談してきた女子にも大きなダメージがあるだろうな。
そう考えていたオレだが、桜井は何故だか笑っていた。オレとは違う考えを持ったのだろうか。
「その心配はないかな」
「どういうこと?」
「100%絶対そうだとは言い切れないけど、私に相談してきた子と桐生くんが好きな子はたぶん一緒だと思うよ」
どうやら、海風も桜井と同じく桐生の好きな人が検討ついているらしい。なら、海風に相談してきた女子というのは、
西蓮寺といえば、海風や桜井と同じく学級委員に選ばれていたやつだ。西蓮寺とは話したことはないが、心優しい子であると聞いたことがある。
桐生も西蓮寺も2人が言うように好きあっているのなら、こんな回りくどいことを、しなくてもいいのにな。
「そっか、それなら内緒にしておきたいね」
「そうそう」
何はともあれ、桐生が誕生日プレゼントを贈る気であるというのなら、サプライズの方がいいに決まっている。
このプレゼントをきっかけに2人が付き合うようになるのか見ものだな。
「まぁ、ともかくお疲れ様、海風さん」
「そうだね。今日も一日なんとか終わったよ」
学校からだいぶ離れたことを確認し、海風は話すトーンを落とした。先程まで明るく喋っていたのが嘘みたいに暗くなる。
「大変じゃないの? 明るいキャラを作るのは」
「今更だよ。学年1位の頭を持ち、スポーツでも上位にいる私が本当は陰キャだなんて、今更誰も信じないよ」
海風茜。学校ではオレと同じく優等生キャラを演じている。どんなときでも明るい、それが海風のキャラであるが、今の姿とは対照的である。
海風の素はこっちである。本来はクラスの中心にいるような人物ではなく、クラスの隅っこにいるようなタイプだ。
アジサイの住人でそれを知っているのはオレと紗絵姉だけである。オレが知った理由としては、素の状態で紗絵姉と海風が話しているところを見かけてしまったからだ。
それからは、オレと2人きりているときは無理して演じることなく、素で話してくるようになった。
「でも、そんなに無茶しちゃダメだよ。演じるのって大変だと思うし」
「ありがとうね、月波くん。いつも気にかけてくれて」
ただ、海風は知らない。海風のようにオレも誰からも好かれるような優等生キャラを演じていることは。こうして気にかけているのも、演技の一貫でしかないのだ。
愛を知るために優等生を演じるオレ。だけど、同居人も闇を抱え過ぎて偽りだらけの関係になっているんだが。 宮鳥雨 @miyatoriame
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