夢中

 とある晩、夢を見た。いくら記憶を掘り返しても見覚えがないローブ姿の五人の人間に、薄暗い地下室のような場所で取り囲まれる夢である。足元には魔法陣と形容して齟齬がない模様が描かれており、その中央に僕は陣取っていた。これほど鮮明な夢は初めてで、温度や匂いに刺激される五感はまさに現実と言い換えても差し支えなかった。


 薄暗がりも時間を追うごとに慣れていき、多種多様な顔ぶれの中に、唯一声を掛けられる人物を発見した。隔離された空間で人恋しさに塗れるあまり、眠っている間に親しき間柄にある友人と再開を果たす。我ながら気持ち悪いと思う。


「中……村?」


 それでも、現実で行方不明になっている友人と恙無く顔を合わせることは喜ばしく、そぞろに笑みが溢れた。だが、中村はまるで化け物でも見るかのような怪訝な眼差しをして僕を凝視している。その心情は計り知れず、一体どのような感情を抱いているのかを盗み見ようと目を凝らすと、中村は疑問を顔に浮かべて言うのであった。


「日浦」


 僕達は互いを正しく認識しておきながら、どこか虚飾めいて近寄り難く思っている。


「第三柱のウァサゴ。機嫌は如何かな」


 夢は、記憶を整理する為に行われる掃除作業だと言う。登場人物は尽く顔を拝んだことがある人物で構成されており、今この場にいる全員、一度は目に入れたことがあるはずだ。友人関係にある中村を差し置いて、僕を目掛けて話しかけてきた男は、記憶の片隅に鎮座する通行人の一人であろう。


「ウァサゴ?」


 耳馴染みのない単語を並べられて、首を傾げぬ人間はいないはずだ。男は、地面にへたり込む僕の視線に合わせて屈み、無害であることを殊更に強調する笑顔を拵えた。はっきり言って、これほど胡散臭い面構えはこれまでの人生で一度も見たことがない。


「君の名前は今からウァサゴだ」


 理不尽な物言いを赤の他人に授けるこの男、自分のことを王様か何かかと勘違いしているのではないか。


「中村、これは一体」


 今し方起きている状況の案配について尋ねてみたものの、中村は青い顔をしたまま固まっており、これ以上言葉を投げかけたところで反応は乏しく、ひいては沈黙を最後まで守る気配すらあった。


「僕の名前はバエル。よろしく」


 道に迷った人間の手を引くかのような傲然たる振る舞いに終始するバエルという男に、当惑した僕の感情に寄り添う気概はないようで、握手を求めて手を差し出す始末だ。


「日浦、一旦飲み込んでくれないか?」


 子どものままごとに付き合わせられる気苦労を想起させる中村の言い回しは、曖昧模糊とした夢の中とは思えぬ実像感に溢れている。

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