二度目の食事は
書割のように整頓された石造りの家々は、いつか見た映画の中の風景と瓜二つである。中世ヨーロッパの風土を感じさせる、来し方の人生とは縁遠いその景色の一部として、俺が存在している現実はなかなかに違和感があった。高く尖った幾つもの屋根が権威の象徴として雁首を揃えて並ぶ背後の城と、目の前に建ち並んだ家の大きさを鑑みると、「魔術師」がどういう社会的立場にあるかは推して知るべきだろう。
前後左右から聞こえてくるブーツの足音に釣られて、俺は見慣れぬ町民の服装に目を惹かれる。個性豊かな襟首の仕立てから、胸のすぐ下に位置するスカートの腰部分は個人の美醜に沿った模様が施されている。女性は揃いも揃って足首まで伸びるスカートを着用していて、生足を出すことを嫌っているようだった。地味目な色合いをする女性の服装とは打って変わり、男は派手な色を身にまとい、個人の持つ趣味や趣向を最大限に反映させつつも、皆同じようにストッキングを穿いて引き締まった脚の具合を披露している。
「凄いな」
ローブの韜晦とアイの先導によって、辛うじて町中を歩けている状態にあり、ゆくりなく吹き抜ける風が裾を捲り上げようとすれば、すかさず手で押さえ込む。ティーシャツに短パンを恥部のように思い、ひたすら隠し通そうとすると、パタパタとトイレのスリッパが音を立てた。
「バエル様も同様のことを仰っていましたよ」
浅からぬ血の繋がりを感じざるを得ない顔立ちからして、俺とそう遠くない驚き方をしたのは想像に難くない。
「それはそうだろうな。こんな綺麗な風景を前にしたら」
アイは俺を一瞥したあと、まるで自分が褒められたかのように誇らしげに微笑む。ベレトが真っ先に町を守ることを指針とし、俺に強要しようとしたことから、魔術師は人々を守る立ち位置にあり、町の安寧を形作る風景の秩序に大きく寄与しているはずだ。頭を撫でられた犬のように朴訥な笑みを浮かべるアイの顔は、期せずして賞賛を送った俺に対する恥じらいも含んでいた。
「あそこです!」
周囲の民家とほとんど区別は付かなかったが、表札代わりの看板が壁に掲げられている。解読不能な文字はどれだけ目を凝らしても意味が翻訳されず、聴覚と視覚の差異に頭が斜めに傾いた。窓ガラスの向こうには、動く人影が見え、閑古鳥が鳴くような寂れた食事処ではないことに一安心した。二台の長机に客が仲睦まじく肩を並べて列席し、食事をする様子が窺え、その恙無い大衆性に気分が上向きになる。
「カラン、カラン」
木の扉に備え付けられた鈴が鳴って、来店を知らせる。
「……」
いそいそと食事に勤しむ咀嚼音と食器が擦れる音のみで構成された雰囲気は、ファミリーレストランや学校の食堂などとは一線を画し、「食事をとる」という言葉がよく似合う。俺達は空いている席に座り、店内の雰囲気に染まろうと一息つけば、忽ち目を疑った。隣で肉の塊を食する男が、ナイフを使ってこそいだ肉の断片を、手で鷲掴みにして口元へ運んだのだ。
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