如何にして

 後ろ盾はない。だが、この決心に嘘偽りはない。白眼視が槍のように飛んでくる中を、あっけらかんと闊歩した。この状況を覆すには、犯行現場を抑える事が手っ取り早く、ダメ押しの殺人が必ず起きるはずだ。しかし、巡視の為に城内を歩き回っていれば、当然ながら俺を忌避して殺人などという自明なる犯行に及ぶ訳がない。もどかしさから切歯扼腕しかけたものの、今こそ「力」を念じるべき時なのではないか。


「頼む……」


 すっかり馴染んでしまった部屋のベッドの上で俺は目を瞑り、城内の情景を反芻する。それは特段、珍しい事ではない。通い慣れていない道筋を頭の中で組み立てるのは、幾度か繰り返した経験はある。ただこれは、迷子にならない為の夢想ではなく、事を好む輩を見つけようとする巡視だ。


 無我夢中がどのようして成り立ち、再現できるかを思考した結果、感覚すべてを途絶し、浅く息を吸って吐いて脳の働きを鈍化させるという、「集中」の名を借りた虚脱感を引き寄せた。すると、身体から湯気が立ち、抜け殻として自分の身体を眼下に見据える、意識の剥離が想像できた。有体であれば叶わぬ浮遊感に天井を抜けて、上階の床から顔が生える摩訶不思議さに笑みは止まらない。


 建築費を抑える資材の統一は、外観の差異を犠牲にした分譲住宅ならではの知恵であり、寸分違わぬ部屋の構造や家具の配置はまさにそれに当てはまった。それでも、そこに身を寄せる人間の個性は失われず、ローブの手入れに精を出す男と巧まずして鉢合わせる。想像だけでは決して補う事ができない光景は、影なく城内を見て回ろうとする俺の願いが叶った証であった。


 これほど能動的に行動を起こすのは、生まれてこの方初めてだ。彼が乗り移ったと言いたくはないが、感化されたのは明白である。流転した環境の変化に順応する為の欝勃とした意気込みは、病室で見た彼の悲願と卑近な位置関係にあり、決して蔑ろにはできない。そして、これから向き合っていく問題の解決にあたり、背骨となり俺を支えるはずだ。


 空間を仕切る壁の意図を尽く無視しながら、城内を泳ぎ渡る。画一的な黒いローブに身を包む魔術師から、個性の一つも看取できない。しらみ潰しに目を光らせるが、殺人の現場と偶合的に懇ろになって、命を奪う瞬間を取り押さえる事でしか、間近に迫った蜂起の機運を撥ね付けられないだろう。生ゴミを漁るカラスのように物見高い目敏さに倣いつつ、俺は不謹慎ながら、目の前で事が起れと心の中で念じた。

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