ヘルカート通りの魔犬 3


「5回目が起きたのが一昨日。≪アンロウ≫事件に関しては僕らに来るのは早かったけど、もしかしたら今夜にでも起きるかもね」


「げんこーはんたいほ、ってやつでしょうか」


「それが手っ取り早い。頼りにしてるよ、エル」


「はい! そういうことなら私にお任せください!」


「うん、全面的に任せるよ」


 彼女は見えない耳と尻尾を揺らす。

 ノーマンも元軍人として荒事は苦手ではないし、自衛の準備もしているが≪アンロウ≫相手では分が悪いことの方が多い。

 だがボディガードというのならエルティール・シリウスフレイムは最も信頼できるのだ。


「……それにしても、ノーマン様?」


「うん?」


「今回は回ってくるのが速かったという話ですけれど、似たような推理を警察の方々もされたということでしょうか」


「あぁ……いや、違うんじゃない? そのあたりは姉さんから聞かなかった?」


「はい」


「説明省いたな姉さん……まぁいいけど」


 ファイルを捲る。

 5人分の被害者の資料だ。

 

「一人目から三人目はホームレス。4人目は工場勤務の男性」


 ここまでは良い、というのもおかしな話だけれど。

 問題があったのは次だ。


「5人目、お貴族様だったみたいだね。それもわりと立派な。えーと、半分古物商というかアンティークのコレクターだったり、他の貴族とかに売買したり、顧客も多かったようだね」


「……なるほど、そういうことですか」


「そう。多分から圧力があったんだろうね。僕らは一応公務員なわけだし。都市の偉い人とかお貴族の意向には逆らえないわけだ。ハリソン刑事が一緒に来なかったのも急なことだったから、そっちの調整にてんてこ舞いかも」


「貴族の方が死んだから貴族の方が調べさせる―――なんというか。ホームレスの方々はどうでもいいと言ってるみたいですね」


「実際そんなもんだよ。バルディウムにもホームレスは多い。偉い人が何人死んでも気にならないくらいにはね」


「……ですか」


 彼女は納得していないようだが、そういうものだ。

 そういうことに納得できない彼女の感性は美点だと思うけれど。

 

「しかしここら辺がどうして夜に貴族の方が来られたんでしょう? この先には特に訪れる場所はなかったと思いますが」


「そこは資料には書かれていないね。


 ノーマンはいい加減な動きで肩を竦めた。

 そして十字路を見回す。

 何の変哲もない石畳の道。

 だけどこの十字路で5人も死んだ。

 人間がバケモノに殺された。


「とりあえず、今夜もう一回ここに来てこの通りも含めて周囲の見回りかな。警察がちゃんと動き出したのも犯人は知っているはずだ。さっきは今夜起きるかもって言ったけど場所を変えるかもしれないし、しばらくは何もしないかもしれない」


「通り魔を終わりにする……ということは?」


「ないね。通り魔で異能を安定させた≪アンロウ≫なら猶更だ。


 問題はそのもう一度がいつ、どこでやるか、という話なのだが。


「ふむ……よし、そろそろここから出ようか」


「次はどちらに?」


「元々はホームレスが殺された事件だったんだ」


 だったらやることは簡単だ。


「――――『廃棄王』に会いに行こう」


「……」


「あぁごめん、エルはあの人苦手だよね」


「はい……いえ。ノーマン様が行くというなら私はついていきますけど」


「ごめんごめん」


 申し訳ないとは思うけれど。

 でも、だって。


「現場に来たけど、新しく分かったことはなにもなかったしね。ほんとにただの散歩になっちゃった」


「私はそれでも嬉しいですけどね」


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