第20話「レッドドラゴン」

 ただいまドラゴンと戦闘中でございます。


 赤くてデッカイの。


 堅固な鱗は、それだけでも人一人分の大きさだ。


 火山の洞窟で眠っている所を叩き起こしたから機嫌も悪い。


 ドラゴンは、目の前で低い唸りを上げ大きな口を開けた。


 口の中に真っ赤なエネルギーを溜めている。


 ベルさんも言っていたが、ブレスを吐こうとしているのだ。


 灼熱のブレスは人など一瞬で溶けるらしい。


 俺の火力最大火魔法と同じレベルかな?


 魔法障壁を展開。


 硬度によってDYの消費量が異なる。


 今回は最大硬度にして展開したので一回10万DYになります。


 エネルギーを溜め終わりブレスを吐くドラゴン。


「おおっ!! 防いでる! 防いでるぜラクちゃん!」


「だから大丈夫だって言ったじゃないですか~」


 良かったー!


 もし破られたらどうしようかと思った。


 多分、障壁自体の硬度と魔力耐性の相乗効果によって、ブレスも跳ね返す魔法障壁になったのだろう。


 さて、こっからは反撃だ。


 先ずはぶん殴る。


 ドラゴンに駆け寄りおもいっきり頬をキック。


 蹴られて「え?」みたいな表情をしていたが関係ない。


 次はどてっ腹にパンチ。


 あ、うずくまって腹を抑えた。


 顔と腹は鱗に覆われていないので物理が効くとみた。


 これは好機だ。


 うずくまっている所を再び殴ろうと拳を振り上げた瞬間――


「ちょ、たんま! 一旦中止して!」


 ドラゴンが真っ裸の女になった。


 なんてハレンチなドラゴンなんだ。


 卑怯だぞ。


 幻惑なんか使いやがって。


 まったくけしからん乳だ。


「どうして股関を抑えて屈んでいるんだ?」


「うるさい! それより服をきろ! 服を!」


「え、もしかして、メルちゃんの姿で興奮しちゃった? へへ、やっぱり人間にも分かっちゃうか~」


 なんなのこのドラゴン。


 とりあえず上着を着せて話し合いを設ける事にした。


 ドラゴンとは言え、人型の女になられたら殴れない。


「てか、ラクトっちって何者? ドラゴンにパンチで効かせるとかありえなくね? 神の手先?」


 なんでちょっとギャルっぽいんだ。


 真っ赤に燃えるような赤い髪と瞳。


 見た目は綺麗な女性って感じだ。


「手先っちゃ手先かもな。接触したのは一回だけだが」


「あ~ね。だからそんなに強いのか~」


 ドラゴンの名前はメル。


 もちろんメス。


 長年生きて暇になったのでここで眠っていたとか。


 世に聞く恐ろしいドラゴンとは別物だった。


「メルちゃん人なんて襲わないし~! てか、人間の方から襲ってくんだよ? だからメルちゃんやり返しただけだし!」


 うむ、そう言われると困る。


 メル自体は獰猛とかではなく至って温厚な性格みたいだ。


 それが最強とはどういう事なのか。


「メルちゃんが一番最初に生まれたからじゃない?」


 他のドラゴンと言えば、アクアドラゴンやアースドラゴン等がいるらしい。


 その中でメルは一番上の姉的なポジション。


 他のドラゴンを圧倒するメルが、最強となった。


 力だけで言えばアクアドラゴンが一番みたいだが、逆らわないので戦う事自体皆無。


「あいつウザいんだよね~、姉ちゃん姉ちゃんって、シスコンかっつうの」


 アクアドラゴンはシスコンみたいだ。


 て事は、アクアドラゴンはオスか。


「ドラゴンって何年生きるの?」


「うーん、多分魔力がこの世からなくなるまでかな~! 永遠かもしんないし、明日かも!」


 ドラゴンは魔力を糧に生きている。


 その魔力が世の中から無くなるまで死ぬ事はない。


 それが永遠なのか明日なのかは、誰にも分からないという事か。


「もう一万年ぐらい生きてるから~、暇なんだよね。もう寝るしかないって感じ」


「そんなに暇ならうちの村に来るか? 退屈凌ぎにはなると思うぞ」


「え、良いの!? 行きたい行きたい!」


「ラクちゃん、本当にドラゴンを村に置くつもりか?」


 ベルさんが不安そうに聞いてきた。


「なんかダメな理由があるの?」


「ダメではないが、ドラゴンがいるとバレたら国々から狙われるかもしれんぞ? ドラゴンを抱えてるやつなんて普通居ないからな」


 そう言う事か。


「ま、バレなきゃ良いんじゃない? それに、万が一バレたとして、村が攻撃されたら全力で守るだけだし。俺は悪いやつじゃなきゃ来る者拒まず去る者追わずだから」


「分かった。村長がそう言うなら仕方ねえ」


 不承不承でも納得してくれたベルさん。


 多分、他のみんなも納得はしてくれるだろう。


 後はメル本人の人柄次第だろうな。


「そのままの姿で飛べるか?」


「ムリムリ! 元に戻ってなら飛べるけど」


 流石にドラゴンに飛ばれたんじゃ不味いだろ。


 通り道の人達は堪ったもんじゃない。


「じゃあ、ちょっと待っててくれ。先にベルさんを送ってくるから」


「りょ♪」


 ベルさんを背負って火山を飛び立つ。


 結局大した腕試しにはならなかったな。


 でもドラゴンからギブアップを取れたから成果はあったのか?


 ここまで結構大変だった。


 ひたすら森の魔物を狩ってレベル上げ。


 お陰で冒険者ランクBまで上がってしまった。


 もう一つ上にAランクがあるが、それは昇級試験があるので受けなかった。


 もしAランクになってしまうと、ギルドからの召集に応じないといけなくなる。


 特典もそれなりにあるのだが、スローライフには関係ないので特に欲しいとも思わなかった。


 という訳で、それなりに強くなったので小鬼達にも負けないと思う。


 ドラゴンも連れてくれば今後の抑止力にもなるだろう。


「ただいま~」


 村へ帰ってドラゴンの件をみんなへ説明。


 みんな驚いてはいたものの、俺が良いなら受け入れると言ってくれた。


 じゃあさっそくと言う事で、火山へ戻る。


「待たせたな。今から行けるか?」


「もち♪ 楽しみだな~! ラクトっちの村には何があるんだろ♪」


 メルをおぶって村へ向かう。


 背中に二つの大きな山が当たって変な気分になってくる。


「どしたの? ラクトっち、心臓ドキドキし過ぎじゃね?」


「うるさい。生理現象だ」


「ふーん。もしかしてメルちゃんにドキドキしてる感じ?」


「んな訳あるかっっ」


「ほ~、へ~、なんなら後で相手してあげよっか? 一万年の技、体験してみる?」


 二つ返事でお願いしたい所だが、子供達に操を立てているので我慢だ。


 誘惑に負ける前に、急いで村に帰ってみんなへメルを紹介。


 服も露出の少ない服を着せた。


 その後は、新しい仲間となったレッドドラゴンのメルを歓迎して宴会。


 メルはお酒もいける口。


 てかめちゃくちゃ飲む。


 一番好きなのは"レッドアイ"という、ビールとトマトを混ぜたカクテルだ。


 やっぱり、レッドドラゴンだけに赤い物が好きなのか?


 人当たりも良いメルは、すぐにみんなと打ち解けた。


 特に子供達はメルに興味津々。


 メルも子供は嫌いじゃないみたいで、色々話を聞かせていた。


 一万年生きてるだけに、面白い話を沢山持っているようだ。


 そんなメルは、魔力も凄い保有量だった。


 ミャルを大きく上回る100万の値を叩き出している。


 一日村に滞在するだけで36万DYを徴収出来る。


 一ヶ月だと1000万超え。


 俺はドラゴンのヒモになる事を決めた。


 ミャルとメルに村に居て貰えるよう、居心地の良い村作りをしていこう。


 メルなら人の娯楽も楽しめるだろ。


 エンタメなら豊富だよ?


 漫画に小説。


 ゲームも出せる。


 どれも俺が生きていた記憶の時代までなら全て揃っている。


「ラクトっち、この村最高じゃね? 後は、ラクトっちが相手してくれれば言う事ないんだけどな~」


 うーん。


 後はメルの誘惑を断ち切れるかだな……。


 頑張れ俺の良心。

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