第7話 貸しの恩恵
着いたのは、中学の時の通学路だった。
「懐かしい」
「うん」
そういえば、一度だけ、彼と一瞬に帰ったことがあった。
「ここで話そうと思うんだけど、いいかな」
「はい」
「話してくれて、本当にありがとう」
「はい」
お互いの間が緊張を誘った。
「正直、あの新幹線の時、大鷹さんが動揺している気がして、僕も何も言えなかった。まさか、会うとは思っていなかったから。実はさ、大鷹さんのことを振ってって言われてたんだよね」
「えっ?」
「っていう、かっこいい話はまったくなくて、ただ、本当に、友達だとしか思っていなかったから振ったんだけど」
「そっちか……。私は、手紙、直接だと受け取ってもらえなかったから、友達に頼んで渡してもらったんだけど、返事が直接だったから、それは嬉しかった。でも、伝えるなら、直接話したほうがよかったのかなぁ」
「そうだね。手紙、捨てられなくて困ってた」
「別に、捨ててくれてよかったのに。びりびりに破ってさ、ポイしちゃえばいいのに」
「ポイ捨てはよくないよ」
「ゴミ箱にポイ、のほうだよ」
ふっと笑って、彼は私に向き直った。
「なんか、聞いてないことある?今なら、話すよ」
「うーん……。あ、そういえば、中1の頃、本屋で見かけたことあるんだけど」
「あー、デートしてたよね」
「あっ、やっぱり気づいてたんだ。私は、その時あなたのこと知らなかったんだけど、なんか行動が変だったから元彼の知り合いなのかなって思ってたんだよね」
「元彼はなんて言ってたの?」
「そういうこと、言わないんだよねぇあの人」
「確かに言わなそう」
「やっぱり知り合いだった?もう仲良かった?」
「えー、教えなーい」
「……嘘つきだなぁ」
「大鷹さんに言われたくない」
なんだか、中学の、よく話していた頃に戻った気がして楽しかった。
「先生って半年も呼んでたからさ、もう先生ってことでいいよね?」
「じゃあ、今度こそ仕事の話聞かせてよ。僕の話も聞いてほしいし」
「カウンセラーが相談者に悩み相談?」
「昔の貸しを返してもらうだけだよ」
「やっぱり、面白い人だよね」
「ふっ、そういうことじゃないけどね」
あの頃から、謎な人だった。それは今も変わらないらしい。思い出の答え合わせは、あって、ないようなものなんて聞くけど、結局、答え合わせよりも、また再開できたことを喜んでしまう。現実以上のファンタジーなんて、ない気がするよ。
思い出の答え合わせ 尾長律季 @ritsukinosubako
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます