第16話 「いのむー」の苦悩
9月、十二局ゲーム部では2年生ゲーム部員の辰浪と馬理央が最近流行りのレースゲームの実況を行っていた。
辰浪「はい俺の勝ち~相変わらず馬理央はゲーム下手だな~」
馬理央「はぁ!?ホントデリカシーないわね!」
コメント「辰浪言い方よ」
コメント「馬理央ちゃんかわいそうだね。」
コメント「辰浪のデリカシーのなさは相変わらずだな・・・・・・」
辰浪「じゃあ、今日はこの辺でさようなら~チャンネル登録よろしくね~」
辰浪は配信ボタンを切った。
理央「は~疲れた。」
並木「はいよ、お疲れさん。」
並木は理央にインスタントコーヒーを差し出した。
理央「サンキュー、口は悪いのにフォローができるのが腹立たしいよね。」
並木「これが僕の性格なの。嫌だったら付いてこないだろ。」
理央「そうね・・・・・・ちょっと、私ブラック飲めないの知っているでしょ!!」
並木はスマホでコメントのチェックをしていた。そこにはこんなコメントが
コメント「「いのむー」全然来ないけど何しているのかね?」
並木はそのコメントを見て少し悲しげな表情をしていた。
次の日、改の部屋で勉強会が行われていた。宿題が終わっていない都と豪だ。先生は改と学級委員長で学年一位の水無月いのりである。
豪「チッ、宿題なんて面倒くさ。」
改「面倒だと思うなら普段ちゃんと計画的に宿題しろ!」
都はいつもの丸眼鏡をかけて変装をしていた。いのりは都の分からないところを教えてもらったりしていた。
いのり「犬神くん教えるの上手なんだね。」
改「最近、家庭教師のバイト始めたからな。教え方が下手くそなら話にならないだろ。」
いのり「その子の成績ってどんな感じなの?」
改「今だE判定・・・・・・まあ、道のりは長いよ・・・・・・一応宿題は出したけどやってるかどうか分からないしな。」
改は右の手をボキボキと鳴らした。
改「教育のしがいがあるな・・・・・・」
豪「は!?その子のうっ憤を俺にぶつけんなよ!」
改「お前も同レベルだ!!」
豪「ざけんな!!」
男性陣が喧嘩しているのを横目に、いのりは都に優しく丁寧に勉強を教えていた。
いのり「ここはこの公式使えば解けますよ。」
都「あ、ありがとう・・・・・・」
いのりの圧倒的聖人オーラを受け、都は別の意味で気絶しそうになっていた。無事に宿題が終わり、いのりは家の都合で先に帰ることに。
都「は~自分偽るのキツ!!でも水無月さんいい人だったな~」
豪「ふん、猫かぶりめ。」
都「キーキーうるさいお猿さんに比べたらマシよ。」
豪と都のいつもの口喧嘩が始まった。
改「お前ら、ケンカしてるならさっさと荷物片づけろ。」
荷物を片付けているとき、豪はあることをつぶやいていた。
豪「そういや、フリーゲに「いのむー」という奴いなかったか?」
都「「いのむー」って十二局ゲームのひとつ上の人?北海道弁が特徴で語尾に「だべ」とか「だよ」ってつけるよね。」
改「聞いたことある・・・・・・この時は勉強ばかりして見てなかったけどネットニュースで話題になってたよな。そこから方言系ヴィーチューバーが増えたとか。」
豪「それにゲームが上手いときやがる。でもフリーゲに入って半年後、急にいなくなりやがった。」
改「その時のこと宇佐美先輩から聞いたのか?」
豪「いや、はぐらかされたよ。」
都「体調不良で長期休みを取ってるって公表してるけど、宇佐美先輩何も言わないから。」
改「気になるな・・・・・・そんなすごい人がなんで長期休みなんて。」
豪「しらね。でももし会えるんなら一戦交えたいもんだな。」
豪はカバンを持って帰ることに。
豪「猫柳はどうすんだ?」
都「アタシはもうちょっといるわ。勉強で分からないところがあるから」
豪「お前が勉強?明日は大雨だな。」
都「何よ!アタシだって勉強することだってあるんです~そんな軽口叩くんだったら猿渡も勉強する?」
豪「やなこった。俺は深夜徹夜ゲームを決め込むんだ!」
改「明日、鬼電して起こしてやる。」
豪「電源切るから問題ない。じゃあな。」
豪はドアを開けて部屋から出て行った。
都「・・・・・・行ったか。さて、アタシも帰るかな。これから配信あるし。」
改「勉強せんのかい・・・・・・」
都「猿渡を追い返すための口実よ。それにアイツもバカね~隣に住んでること知らないなんて~」
改「知ったらいろいろまずいだろ。」
都はカバンを持って自分の部屋に戻って行った。
改「「いのむー」ね・・・・・・」
改はヴィーチューブを開いていのむーのチャンネルを見てみた。最後の配信が半年前で止まっているが、チャンネル登録者数は48万人と多い方である。
しかし身近にいる豪樹は55万人。ミャー子は70万人とやはりこの二人は別格だが・・・・・・改は配信のアーカイブを見た。イノシシの被り物に藍色のショートヘア。水色の綺麗な目で服装はアイヌ民族の衣装を彷彿させている。
いのむー「おばんです~いのむーだべ。」
改「おばんです・・・・・・北海道弁で「こんばんは」ってことだよな。やっぱ北海道出身なんだろうな。」
いのむーはサバイバルゲームをやっていたがその腕は・・・・・・
改「(コイツ・・・・・・上手い。敵の位置を正確に把握してるし・・・・・・スナイプ能力も申し分ない。確かに猿渡の言う通りゲームセンス抜群だな。じゃあなんで半年も顔を出さないんだ?)」
改は次の日、職員室に行きいのむーのことを寅好先生に話を聞いた。
寅好先生「・・・・・・そうか。君にも彼女のことを教えなくてはならないね。」
寅好先生の細い目が静かに開いた。
寅好先生「いのむー。いや、「猪頭 りむ(いのがしら りむ)」のことを。」
放課後。寅好先生に誘われて部室にやって来た改。そして・・・・・・
改「なんでお前が来てるんだ?」
寅好先生「私が呼んだんだ。猿渡はどうした?」
都「アイツ、日本史の南(みなみ)先生に宿題出してないって怒られてます。後で合流するって。」
寅好先生「まあいいや。二人だけでも話すか。」
寅好先生は二人の前のテーブルの上に紙コップを置き、麦茶を注いだ。
寅好先生「猪頭はゲームの腕を見込んでスカウトしたんだ。」
改「確かに猪頭さんの腕はプロ並みでしたよ。」
寅好先生「彼女も最初は喜んで引き受けたけどな。プロゲーマーレベルのヴィーチューバーを初めて入れたせいか・・・・・・当時の先輩方と方向性の違いで揉めてな・・・・・・配信外でのことだからみんなが知らないのも無理ないよな。」
改「そんなことがあったとは・・・・・・」
寅好先生「何度か連絡はしたんだけどそれ以来彼女は登校しなくなったんだ。彼女には悪いことをしたと思ってる・・・・・・」
改「でも豪のほうがもっと迷惑かけてるよな・・・・・・」
都「それ言えてる~」
寅好先生「お前ら・・・・・・もうちょっと真面目に聞いてくれるか・・・・・・」
改「すんません・・・・・・」
寅好先生「私も顧問だから何とかしたいんですけど電話が繋がらないしチャイムを鳴らしても出ないしどうしたら・・・・・・」
豪「だったらそいつをぶっ倒せばいいじゃねえか。」
日本史の先生に怒られていた豪が部室に入ってきた。
改「ぶっ倒すってゲームのボス戦じゃねえんだから。」
豪「おい、そのいのむーの場所を教えろ。」
寅好先生の細い目が静かに開き、豪を睨みつけた。
寅好先生「猿渡くんにはまず指導が必要ですね・・・・・・」
豪「な!?なんでだよ!」
都「でも、アイツの言うことも一理あるかも・・・・・・」
改「猫柳?」
都「3人で彼女を連れ出すわよ!」
都は改と豪の3人は寅好先生からりむの住所を聞き出して向かうことに。場所は5階建ての集合住宅でりむの部屋は最上階の5階だった。
都「ここね・・・・・・猪頭って人の部屋は・・・・・・」
都はチャイムを鳴らして呼び出すも出てくる気配がない。
豪「そんな生易しいもんじゃ出てこねえだろ。こんな時は。」
豪はドアを乱暴に叩いて
豪「おいおい猪頭さんよお!さっさと開けてくんない!色々聞きたいことがあるんだよ!」
改は豪の頭に手刀で思い切り叩いた。
豪「イデッ!なにすんだよ!」
改「そんな借金取りみたいな呼び出ししても出てくるもんも出てこないだろ!ただでさえバカなんだからこんなことで騒ぎを大きくすんな!」
豪「は!?バカっていう方がバカなんだよ!」
改「めんどくせえな・・・・・・」
改はドアの前で優しい口調で奥にいるであろう、りむに話しかけた。
改「初めまして猪頭先輩。干支珠高校1年の犬神改です。先輩のことは寅好先生から聞きました。先輩が閉じこもってしまったことも・・・・・・」
改は反応を待っていてもドアが開く気配はない。
改「実は俺も中学の時ほとんど学校行けてないんですよ。そのときはゲームに没頭しすぎて、学校に行くのが嫌になって家族に迷惑かけたんです。その時俺思ったんです。このままじゃダメだって・・・・・・先輩もそう思ってますよね。」
改が再び反応を待っていてもやっぱりドアが開く気配はない。
改「(ダメか・・・・・・やっぱりこのやり方でも先輩を動かすことはできないか・・・・・・)猫柳、猿渡。今日はやめようまた後日・・・・・・」
その時、ドアが開いた。そこからひょっこり現れたのはイノシシのパーカーを着た藍色の髪と目が美しい女子高生だった。
りむ「あの・・・・・・詳しい話は・・・・・・中でしてもらえるかべ?」
次回、りむ対改たちの話し合いが始まる。
第16話(完)
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