第33話 お喋りな元同僚
「えーーーーーーっ!?」
オリンズさんは、これでもかというくらい驚きの表情を浮かべ、椅子から立ち上がる。
「あの難攻不落のルトヴィエ隊長が!?」
「難攻不落って……」
ルクスさんは眉を顰めるが、かつての同僚はそんなことは気にしない様子で捲し立てる。
「騎士団では有名ですよ。ご令嬢がたからの求婚には目もくれず、王国一と名高い美女が声をかけてもスルー、ハニトラは全然通用しないし、陣営に集まってくる女性たちの誘いにも乗らないから、実は不の――ぐぇ」
ルクスさんはものすごい勢いで、オリンズさんの口を手で塞いだ。
「外では男所帯のノリで話をするなって、前にも言ったよね」
「ずびばぜん」
顔は笑っているけど、目が笑っていない。
私は今、ルクスさんの新たな一面を目撃している気がする。
「俺はただ、色恋とは無縁だった隊長に、大事な女性がいたということに驚いただけです」
「黙って食べて」
「はい……」
言いつけ通り、大人しく食事をしていたオリンズさんだったが、しばらくすると私の方をじーっと見つめて溜め息をつく。
「折角可愛い子と出会えたと思ったのになぁ……」
可愛い子って私のこと!?
りんごケーキ作りに夢中になっているふりをして、聞き耳を立てる。
「隊長は小さくて守ってあげたくなるような、愛くるしい女性が好みだったんですね。しかも料理上手ときたら、胃袋掴まれちゃいますよ」
「あまり無駄口叩くようなら、そのまま外に放り出すよ」
ルクスさんは元同僚を冷たくあしらう。
いつもと違ったやりとりが面白くて、私は思わず笑ってしまった。
「ふふ。お客様に乱暴なことをしたら駄目ですよ」
ルクスさんが眉間に皺を寄せる傍らで、オリンズさんは「ですよね!」と嬉しそうに同調する。
「騎士団にいた時のルクスさんは、こんな感じだったんですか?」
「そうですよ。クールな一匹狼って雰囲気だけど、実際は仲間想いで優しいし、めちゃくちゃ強くて皆の憧れでした」
「クールで一匹狼……意外です」
私の知るルクスさんはどちらかというと、人懐こい大型犬という印象だった。
「やっぱり好きな子の前では、デレデレしたりするんですか!?」
ルクスさんは手で顔を覆い、恥ずかしそうに「頼むからやめてくれ」と言う。
私も次第に恥ずかしくなってきて、火照る顔を仰ぎながら「デレデレとかはないですよ」と答える。
駄目だ。騎士団時代のルクスさんのことは気になるけど、このまま話していると、私のヒットポイントがもちそうにない。
「あ、あの。前から気になってたんですけど、ルクスさんは何魔法の使い手なんですか?」
話の流れを変えようと思って尋ねたところ、二人はきょとんと私を見た。
あれ、私、何か変なことを言ってる!?
「何魔法というのは……」
「炎や水とか、属性みたいなものです」
それを聞いたルクスさんは、ようやく私の勘違いに気づいたようで、この世界における魔法のあり方を教えてくれた。
「スズには魔力がないから知らないかもしれないけど、属性というのは特にないんだ」
「そうなんですか」
「上手く説明できないけど、使いたい魔法をイメージして、魔力をコントロールして使う感じかな」
なるほど、感覚的なものなのか、と理解する一方でオリンズさんは怪訝な顔をする。
「そんな芸当ができるのは隊長くらいですよ。普通はある程度、型を覚えて使うんです」
実際の戦闘で使えるレベルになるには、多くの魔力とコントロール力が求められるようで、騎士団の中でも魔法騎士と呼べる存在はあまり多くないらしい。
「気になるようだったらネイドに聞いてみて。魔法を理論で語る天才だから」
ルクスさんはそう言うが、凡人の私が天才の話を聞いても何一つ分からないような気がした。
「全く魔力がないというのも珍しいですね」
「珍しいけど、たまにあるらしいです」
私は笑って誤魔化す。
常識外れの質問をしてしまったことは、「魔力がない」という説明で納得してもらえたらしい。
異世界から来たことは、ごく親しい人の間に留めようという話になっているので、私はもう少し、この世界の常識を身につける必要がありそうだ。
「エゼライの件は、戦争に繋がるようなものではないんだね」
「一応機密だから言えませんけど、今のところは停戦合意が覆るようなものではありません」
「それならいいけど」
「隊長が呼び戻される事態にはなりませんよ。たぶん」
ルクスさんとオリンズさんは、しばらく世界情勢や仕事の話をしていた。
あまり聞かない方が良いだろうなとは思っていても、勝手に耳に入ってきてしまう。
「少し雪が収まりましたね。そろそろ出ます」
オリンズさんは、チラッと窓の方を見てから立ち上がる。
お金を出そうとしたところ、ルクスさんが止めた。
「今日はいいよ。僕のおごり」
「いいんですか? ありがとうございます」
「コートをとってくるから待ってて」
ルクスさんが二階へ上がり、二人きりになった隙に、私はずっと気になってたことを訊いてみる。
「あの、ルクスさんは騎士団に戻らないといけないんですか?」
「……最終的には隊長次第だと思います。国を見捨てられるような人でもないし、有事の際には戻らざるを得ないんじゃないですかね」
二階から、ド派手な赤いコートを手に戻ってきたルクスさんは、オリンズさんに笑顔で圧をかける。
「変なこと言ってないよね?」
「真面目な話をしてましたよ。ってコートってこれですか?」
「頂き物なんだけど使わないからあげる。ないよりましだと思うよ」
「まぁ……そうですね」
オリンズさんは渋々コートを羽織った。
真っ白な雪にはまた一段と映えそうだ。
「気をつけて。団長によろしく」
「郊外でイチャラブ生活を満喫してましたって伝えときます」
「それは語弊があるからやめて」
オリンズさんは「えー、どうしましょう」と悪戯っぽく笑って出ていった。
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