第12話 ドキドキの試食会

「どうでしょう……」


 いつも配達に来てくれる青年――リュッカさんが私のお菓子を食べる様子を、カウンター越しに固唾を呑んで見守った。


 どれも、カフェに置こうとしているお菓子の試作品だ。


 ルクスさんには既に味見をしてもらって好評だが、一般のお客さんに通用する出来なのか未だに確信が持てていない。


「こんなに繊細で美味しいお菓子は初めて食べるっす。特にこの、カリッともちもちしてるやつが気に入りました」

「カヌレですね」


 近頃は日本でも定番スイーツになってきている、独特の食感とラム酒の香りが特徴的な焼き菓子だ。


「僕も好き。年に一度くらいかな、孤児院で出たんだよ。まさかスズが同じものを作れるとはね」

「ルクスさんが型をもらってきてくれたおかげですよ」


 聞けば、ルクスさんのいた孤児院の運営母体が修道院らしく、伝手で焼き菓子の型をいくつか譲ってもらったそうだ。


 その中にカヌレ型があり、記憶と勘を頼りに試作を重ね、ようやく人に出せるまでになった。


 ルクスさんもカヌレが一番のお気に入りと言っていたので、グラスティア王国の人の口に合うのかもしれない。


「このフルーツのお菓子も自然な甘さで食べやすいかも」


 次にリュッカさんが指し示したのは、無花果のタルトだった。


 基本的なタルト生地にアーモンドクリームと、今が旬だという無花果の輪切りを敷き詰め、焼き上げたケーキである。


 これは、ネイドさんが魔道具版フードプロセッサーを作ってくれたお陰で、実現したんだよね。


 アーモンドパウダーから自作した渾身の作だ。


「ハーブティーの方はどうですか?」


 尋ねると、リュッカさんは改めてハーブティーをひとくち飲んでくれる。


「そうっすね。もっと苦くて癖のあるイメージだったけど、飲みやすいし、甘いお菓子にちょうど良いなと思います」


 欲しかった言葉そのもので、私はルクスさんと微笑みを交わす。


「ラズベリーリーフとマルベリー、それからスッキリするようミントを少し混ぜてみた。マルベリーは食事の前に飲むと体にいいと言われてるんだ」

「へ〜。そう言われると、何か元気が湧いてくる気がするっすね」


 ルクスさんがブレンド内容を説明すると、リュッカさんは興味深そうにハーブティーを飲み進める。


「庶民が手を出させないようなお菓子が破格の値段で食べれますし、ハーブも一度試したら癖になりそうなんで、客さえ呼び込めれば繁盛すると思いますよ」


 リュッカさんの評価は悪くなかった。


 ただ、「俺的には、ガッツリお腹を満たせるものがあった方が嬉しいっすけどね」と言うので、定番メニューにする予定のおばあちゃん直伝ハンバーグを出す。


 すると、目をキラキラ輝かせ、「美味い」を連呼しながら食べてくれた。


 こんなこともあろうかと、用意しておいて良かった!


 やはり、若い男性はお菓子よりもガッツリメニューを好むらしい。


 普通と大盛りで値段を分けて準備するのもありだな、と気づきを得る。


「自信はついた?」


 ルクスさんに聞かれて、「少しだけ」と返す。


 これなら近日中にプレオープンとして近所の人を招待して、それから本格的に営業を開始するスケジュールで問題なさそうだ。

 

「ひとつお願いがあるんですけど……」


 私は今日のために準備しておいた、手作りショップカードの束をリュッカさんに渡す。


「これを、リュッカさんのところの店先に置いてもらえませんか?」

「お店の情報……? 面白いっすね。母ちゃんに聞いてみます。大口受注に喜んでたんで、まず駄目とは言わないと思いますよ」


 リュッカさんの家は街で食品の小売りも行なっているので、ショップカードを置いてもらえれば、興味を持ってくれる人がいるかもしれない。


 シャロンさんにも後日、頼むつもりだ。


「じゃあ、また明後日配達に来ます。今日はごちそうさまっした!」


 リュッカさんは、元気に挨拶をして店を出て行く。


 それから数分もしないうちにドアベルが鳴ったので、忘れ物でも取りに戻ってきたのかと思いきや、店に入ってきたのは見知らぬ美青年だった。


「い、いらっしゃいませ」


 まだオーブン前だけど、もしや初めてのお客さん!?

 

 動揺して、洗っていた皿を落としそうになった次の瞬間、隣のルクスさんが親しげに声をかける。


「あれ。今日、何か約束してたっけ?」

「いや、仕事で南部から戻ってきたところ。このまま王都に行く必要があって、途中で寄った」


 青年は慣れた様子でカウンター席に座る。

 

 ウェーブがかった銀髪に、無気力だけど色気のある目元と唇――。


 バチっと目が合い、彼は冷たい表情のまま私に尋ねる。

 

「新しい魔道具はどう?」


 まさか、と思う。


「……ルクスさん、この方は?」

「あれ? 分からない? ネイドだよ」


 私は思わず「ええっ!?」と叫んでしまいそうになった。

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