第5話 騎士様の友人

「私がルクスの恋人? ないない! 今までも、これからもあり得ないわよ」


 シャロンさんは笑いながら、手際良く私の髪を編み込んでいく。


「よかった……」


 ひとまず最悪の事態は回避された。

 私はほっと胸を撫で下ろす。


「心配させてしまったかしら?」

「私がルクスさんを好いているというわけではないんですけど、恋人さんを怒らせてしまったらまずいと思いまして」


 居候を決める前に、恋人の有無を確認しておくべきだった。

 

 もし恋人がいたら――ルクスさんが私を恋愛対象に見ることはないにしても、一緒に住むことを好ましく思わないだろう。


「大丈夫よ。私の知る限り、ルクスに恋人がいたことはないわ」

「えっ? あんなに素敵な人なのに?」

「あら。素敵だとは思ってるのね」


 シャロンさんは真っ赤になった私を見てくすくす笑う。


「違うんです。ほら、客観的に見てもルクスさんは背が高くてイケメンで、人当たりもいいじゃないですか」

「そうねぇ。モテないわけではないけど、鈍いうえに色恋への関心が薄いのよね。だから貴女を連れてきたことにびっくりしてるの」


 それで、シャロンさんは二人の関係を聞こうと思ったようだ。


「私は本当に成り行きで……別の世界から来て、ルクスさんしか頼れる人がいなかったから面倒を見てくれてるんだと思います」


 異世界から来たという話は既に伝えた。


 驚くか、信じてもらえないかのどちらかだと思ったが、シャロンさんは「そう」と言って済ませてしまった。


 彼女曰く、異世界人が迷い込むことはごく稀にあるらしい。


「貴女はとても控えめなのね。自分に自信がない、とも言えるかしら」


 図星をつかれてドキッとする。

 その通り。私は自分のことがあまり好きではない。


 幼い頃からそうだったというよりも、成長過程で小さなことが積み重なって、どんどん自信を失っていたように思う。


「卑下するのは良くないと分かっていても、なかなか変えられません」

「責めてるわけじゃないのよ。でもこの国では珍しいタイプだわ。ルクスはそういうところに惹かれてるのかも」


 惹かれてるなんて、そんなことあり得ない。

 またうじうじとした発言をしそうになって、口をつぐむ。


 必要以上に自分を下げるのは駄目だ。

 でも、自分が誰かにとっての特別だと勘違いすることは避けたい。


「まぁ、後で釘を刺しとくわ。でも、きっとあなたたち二人の相性は良いわよ。ルクスは深いことを考えないで物事を決めるところがあるから、慎重で控えめなタイプが傍にいた方がいいと思うの」

「確かに、レストランを継いだ話は大胆だなと思いました」

「そうなのよ。急に街に現れたと思ったら、のんびり暮らしたいから騎士団を抜けてきたって……そんな簡単に辞めれる立場でもないでしょうに」


 シャロンさんは盛大に溜め息をついた。


「ルクスさんは偉い人だったんですか?」

「あら、聞いてない? 第一軍隊の隊長だったのよ」

「それは……すごそうですね」


 騎士団の位のことはよく分からないが、『隊長』ということはグループのリーダーだったのだろう。


「戦争中の活躍ぶりは本当にすごかったのよ。それがルトヴィエ公爵の目に留まって、養子にもらわれたのにねぇ」


 公爵というのは確か、貴族の中でもかなり上の立場ではなかったか。


 え……、ということはルクスさんって貴族なの? それなのに、郊外でハーブを育ててるの?


 頭の中に『?』が広がっていく。


「色々話しちゃったけど、あまり気にしないでやって」

「は、はぁ」

「なくならない争いや、貴族のしきたりに疲れてしまったんでしょうね」


 シャロンさんは重たいことをさらっと言ってのけた。


「はい、完成」


 私がぼんやりしているうちに、髪の毛のセットが終わったらしい。


 本職美容師と言われたら信じてしまいそうなほど、シャロンさんの編み込みハーフアップのクオリティは高かった。


 シャロンさんの見立てで着せてもらった町娘服も、意外と似合っている気がする。


「ありがとうございます! 可愛いです!」

「思った通り、モカブラウンの髪に淡い水色の生地が映えるわね」


 シャロンさんは私を見て満足げに微笑むと、どこからともなく大きなポーチを持ってきた。


「お化粧もしましょうか?」

「お願いします」


 とりあえず、ルクスさんのことは本人から聞いたわけでもないし、考えるのはよそう。


 私は思考を放棄して仕上がりを待った。


 

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