【短編】クリスマスプレゼント

お茶の間ぽんこ

クリスマスプレゼント

 クリスマスの日、その日も仕事尽くしだった。朝目を覚ましてコーヒーを沸かして、自分の仕事部屋にあるパソコンを起動させる。


 中間管理職になってからはその職にふさわしく毎日が多忙だった。昨日も深夜二時まで仕事があって、妻と息子が寝ついた頃にラップがされたご飯を一人で寂しく食べた。


 幸いにもテレワークなので通勤時間を睡眠時間に充てることができるわけだが、それでも四時間ほどしか眠れていない生活を続けている。休日でさえも残った仕事を消化したり惰眠をむさぼっているので、ろくに妻たちとコミュニケーションを取れていない。


 そんな俺に呆れているのか、妻は家ですれ違ってもそっけない。


「今日もMTGが詰まっているな」


 淹れたコーヒーを啜りながらパソコンに映し出されるカレンダーを見て独り言をもらす。


 今日がクリスマスだからという理由で、有休を取っている若手の部下もいた。どうせ、恋人と出かける約束でもしているのだ。敢えてこの日に仕事を振ってやれば俺の気分も晴れたかもしれない。


 そういえば、今年はサンタとして息子に何をプレゼントすればよかったのだろうか。


 いくら仕事が忙しいとは言っても特別な行事は大切にしたい。子供にとってクリスマスは胸を躍らせるイベントで、俺も子供の頃は本気でサンタを信じていた。サンタがプレゼントを運んでくる現場をおさえてやるまで寝まいと眠気に耐えていた記憶がある。


 プレゼントは妻に買ってきてほしいところだが、この前「プレゼント買ってくるぐらいの家族サービスもできないの?」と嫌味を言われたので、今年の息子へのプレゼントは俺が買うことになった。


 今週は仕事で忙しいと後回しにし続けて気がつけばクリスマス当日になっていた。今日買いにいかなければ息子の夢を壊してしまうことになる。


 息子の部屋に行って机の上にある紙を見る。俺の家では何をプレゼントしてほしいかをサンタに伝えるために欲しいものを紙に書くという約束事を決めている。


 そこには「バット」と書かれていた。


 なるほど、息子は今野球にはまっているようだ。確か家の近くにスポーツ用品店があった。


 仕事の空き時間を強引に捻出して何とかバットを買うことができた。


 その日は仕事が終わっていなかったが家族揃って夕飯を食べることにした。


 夕飯はクリスマス仕様でローストチキンにピザ、クリスマスケーキが並んでいた。


「お父さんと平日に一緒にご飯食べられるの、久しぶりだね!」


 息子はうきうきした様子で口を汚しながらローストチキンを食べている。


「あぁ、今日はクリスマスだからちょっと早く仕事終わらせたんだ」


 本当は食事を済ませた後、また仕事に戻るのだが。


「洋太! 口にものを入れながら喋らないの! 行儀が悪いじゃないの」


「へへ、今日ぐらい良いでしょ」


 妻は息子の汚れた口を拭く。息子は落ち着きを見せない。


「ねぇ、今日もちゃんとサンタさん来てくれるかな?」


「お怠けなサンタさんじゃなかったら来てくれるわよ」


 妻が「ちゃんと用意したわよね」とでも言うかのように俺をチラッと窺いながらピザを取りやすいようにピザカッターで切り分ける。


「絶対来てくれるはずさ。洋太は何をお願いしたんだ?」


「バットだよ!」


「おー、バットか。友達と野球でもするのかい?」


「それもあるけど、お父さんと遊びたくてお願いしたんだ」


 息子は無邪気な目をして俺を見てくる。休日に遊んでやれていない自らの怠惰さを呪う。


「そうかい。バットが届いたらお父さんと遊ぼうな」


「うん!早く明日にならないかなー」


 俺は口ではそう約束しているが、どうせまた休日になっても仕事を理由に遊びを断るだろう。そんな自分に嫌気がさした。


 その後も息子の今日学校であった出来事を聞いて、久々に息子の近況を知れて満足した。


 食事が終わった後、自室に戻って残っている仕事を片付ける。


 今日の仕事のノルマを達成した頃には深夜三時になっていた。間に食事を挟んだのでいつもより遅くの退勤になった。


 疲弊した身体で包装紙に包んだバットを息子の寝ているそばにそっと置いた。


 そしてシャワーも浴びず寝室に行って布団に入るとすぐに意識が飛んだ。



 朝目を覚ましてまだ疲れが残っている身体を動かしてシャワーを浴びにいく。


 シャワーで無理やり自分を覚醒させて、日課であるコーヒーを淹れて仕事部屋に向かった。


 仕事部屋に行くとそこには滅茶苦茶に破壊されたパソコンが置いてあった。

それを見て誰の仕業かはすぐ分かったが、怒りの感情よりもどこかすっきりした気分になり、今日は息子が帰ってくるまでに身体を休めるため、寝床につくことにした。

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