閑話


「え、何?騒がしいわね」

教室で海月と話していたら廊下から高い声が聞こえた。

大方、小湊だろう。

初めてアイツを見た人は大抵その美貌にざわつく。

「あぁやっぱり、小湊だわ。流石に小学校の頃より騒がしいわね」

海月の名字は姉小路だから席は廊下側の一番前。

だから少し顔を覗かせるだけで充分状況が把握できた。

何人もの女子が顔を赤らめ遠巻きに見つめている。

慣れない内は大変だろうな。

それに小湊自身は別にチャラチャラしていたり色恋が好きという訳では無いので勘違いして攻めると逆に引かれてしまう。

幸いな事に今までトラブルになる事は無かったが、成長するに連れてあの性質がトラブルを起こす事は確実だろうな。

少しして様子を見ると、どうやら一人の小柄な男子が被害を受けているらしい。

可哀想に。相手が小湊では例えそんな趣味無くても妙な気を起こしかねない。

「どう思う?御崎。あの男止めるべきかしら」

確かに、年々小湊の口説き癖は酷くなっている。

残念な事に、小湊自身に他意は無く、インキュバス故の習性のような物だから気を付けようも無いのだ。

「ほっといていいんじゃないかな。もしかしたら仲良くなれるかもしれないし」

「変な意味でなく?」

「変な意味でなく」

そもそも小湊も見た目こそ大人びているが中身はちゃんと年相応なのだ。

極普通の友人関係を築けるチャンスを壊すような真似すべきではない。

「てゆうか、小湊の事より海月だよ。変なトラブル起こさないでよ?」

「あら、アタシの何処に問題があるって言うのよ?」

問題だらけだ。おネェ口調は仕方ないとして、小学校の頃なんかは気が強いから先生と口論になったりした。

「とにかく、怒りっぽいのを何とかして。相手に言い返す前に一呼吸置く」

思う所があったのか、暫く考え込むように間が空いた。

廊下に目を遣ると、いつの間にか杏也と昴が小湊と合流していて何事か雑談していた。

「……思ったんだけど、やっぱりアタシ悪くなくない?売られた喧嘩は買うわよ」

「だからそういう……」

反省していないらしい海月に言葉を返そうとした時、廊下から先生の物らしき声が聞こえた。

いい加減うるさかったし、身嗜みを整えようとトイレに並んでいたり、クラスを確認しようと掲示板を見ようとしていたりしているだけにしては廊下に人が多すぎるから、大方小湊の噂を聞き付けて見に来ていた人もいたのだろう。

開け放たれた廊下側の窓からその先生が目に入る。

周囲の生徒達より頭一つ分は背が高いその先生は、小湊とは違ったタイプのイケメンだった。

小湊が王子様なら、差し詰めあの先生は王様みたいな凛とした美しさがある。

「……御崎、話聞いてた?」

「え……ごめん、何?」

海月に肩を揺すられ、先生に見惚れていた事に気が付いた。

あまりに綺麗すぎて、性別がわからなかったけれど、声を聞く限り男性のようだ。

「だからね、アタシは別に構わない訳よ。誰に嫌われようとね。わかってくれる奴が数人いればいいわ」

子供は時に残酷で、周りに合わせたがるものだ。

だから海月のように異端である事に臆せず、周りに流されない自分を持っている奴を嫌うのだろう。

「……まぁ、そういうはっきりした所が海月のいい所ではあるんだけど、心配ぐらいさせてよ」

「あら、わかってるわよ。心配してくれてるんだなっていうのは。その上で、大丈夫って言ってるの」

まぁ、わかっているのなら大丈夫……だと思う。多分。言っても聞かないからな、海月は。


暫くして小湊が教室に入ってきた時、あちこちから悲鳴があがった。

そうなるだろうなとは予想が付いたので入ってくる瞬間耳を塞いでおいて正解だった。

塞いでおいたのだが、それでもうるさい。

でもそれは、予想していた悲鳴とは少し違った。

最初は確かに小湊に対する歓声だった。

それが小湊が教室に入って来た時に、驚いたように教室の入り口に佇む男子が目に入ってきた瞬間、息を飲むような、ショックを受けるような反応に変わった。

それが何故なのか、その時はまだわからなかった。

後に、その新島雪耶という誰よりもおどおどしている少年が他の生徒の二千倍以上の圧倒的な点数差を付けて戦闘試験で一位を取った事を知って驚愕する事になる。

結論から言って小湊の挨拶は上手くいっていた、と思う。多分。

何せ声が殆ど聞こえなかったのだ。

小湊が壇上に上がり第一声を発した途端、あちこちから歓声があがり、卒倒する者まで出た程だ。

いくら小湊がカッコいいとはいえ、大袈裟ではないだろうか。

しかしそれが異様だと気付けた者はほんの数人だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る