第144話 ヌシサマ

 ズズンッ……ズズンッ……ズズンッズズンズズンズズンッ。


 メチャクチャ揺れる! なんだこれ!?


「ゆ、揺れ過ぎじゃないか!?」


 オレは立っていられなくなって、地面に手を付いたのだが、二人は翼で飛び上がっていた。あ、そうすれば良いのか。

 一足遅れでオレも飛び上がると、二人の横に着いて湖の方を見てみた。


「何あれ?」


 湖岸にいたのは確かにドラゴンと見紛う巨体の亀。だがその数が尋常じゃない。30体はいるだろう巨大亀たちが、湖岸で折り重なって暴れているのだ。


「あれは、皆求愛行動してるのかな?」

「多分……。ってそんなこと言ってる場合じゃない! 駆除しないと、この地震で街も無事とは思えない!」


 マーチにツッコまれた。だが確かに! オレたちは急いで主様の下まで行き、上空から一撃食らわせた。


 キイイイイイン!!


 澄んだ高音とともに跳ね返されるオレたちの剣。亀はオレたちが来たのを目視すると、甲羅へと隠れてしまったのだ。とは言え、


「いくら硬いと言っても、斥力ブレードと相応の剣だぞ!?」


 オレの愚痴に亀の代わりに答えてくれたのはマーチだ。


「斥力だから効かない。おそらくヌシサマの甲羅には私や烈牙と同じディメンション系の魔法が掛けられてる」


 なるほど、そういうことか。


「なるほど。して、ディメンション系とは何かのう」


 !!!? 烈牙さんの衝撃の告白に空中で固まるオレとマーチ。


「え? 烈牙さんの太刀って、切れ味を上げるのに、ディメンション系の魔法を付与してるんじゃないんですか?」

「いや、ワシはひたすらに剣の技を研いてきただけのこと。そのディメンション系とやらは全く使えん」


 つまりバフ一択で、それだけを練り上げて練り上げて今の強さに到達したってこと!? やっぱり烈牙さん化物だな。

 ふと隣のマーチを見ると、真っ赤になっている。いや、誰だってあの強さにはからくりがあると思うよ。


「と、とにかく、どうすれば良い? リン!」


 考えるのはオレ任せですか。


「甲羅に隠れたってことは、首や手足はさすがにそんな硬度ではないと思うんだよ」


 と思案していると、主様の一体がのそりと甲羅から首を出し、こちらに向けて口を開いた。


 ズビシュウ!!


 高圧洗浄機も真っ青な圧縮水がオレたちに襲いくる。

 それを間一髪で避けるが、オレたちの後ろの林が、主様の圧縮水を受けて伐り倒された。


「マジか!?」


 などと林を見て呆けている場合ではなかった。主様へ振り返ると、30体の主様が皆口を開けている。


「た、退却!!」


 オレたちはほうほうのていでその場から飛び去ったのだった。



「ヤバいな」

「ヤバいわね」

「ヤバいのう」

「ヤバいですね」


 三人と一羽は元いた場所に戻ってくると、顔を突き合わせて今後の作戦を練っていた。と言っても碌な案は出ないが。

 問題なのは主様が30体もいることだ。おそらく一体ならオレたち三人で掛かれば簡単に倒せるだろう。しかし数の暴力とは恐ろしい。何せさっきの圧縮水の攻撃で、一面の林は綺麗に薙ぎ倒されてしまったのだから。

 今も主様からこちらは丸見えなのだが、ズシンズシンと求愛行動に忙しく、こちらはほったらかしである。しかしこのままにしておくと、主様が引き起こす地震によってトレシーの街が崩壊してしまう。

 ハァーーーーー、仕方ない。これも修行と諦めよう。


「マーチと烈牙さんは攻撃に専念してください」

「リンは?」

「オレが主様の攻撃を引き受ける」



 ズシンズシンと求愛行動をしているところに、オレが上空から舞い降りる。烈牙さんとマーチの二人は上空待機だ。

 オレが視界に入ったことで、求愛行動の邪魔をされた主様の一体が、口を開けて圧縮水を撃ち込んできた。

 それを前面に強化させた斥力バリアで防ぐ。その間に亀の首を斬り落とすのが今回の作戦だ。

 作戦とも言えない無謀な策だが、この場にはマヤもいないし、呼びに行っている時間も惜しい。やるしかないのだ。


 ズビシュウ!!


 主様の圧縮水で吹っ飛ばされるオレ。


「リン!」

「……大丈夫だ。生きてる」


 オレがむくりの起き上がったのを見て二人がホッとしているが、その隙に攻撃して欲しかった。

 主様の方も、オレに攻撃を受け止められて、苛立ったのだろう。30体が一斉にこちらへ向けて口を開けた。

 それをオレは上空へ飛び上がって避ける。別に全部受け止める必要は無いのだ。べ、別に一発食らってみて予想外に踏ん張りがきかなくてビビっている訳じゃない。作戦である。

 時に斥力バリアで受け止め、時に上空を華麗に飛んで圧縮水を避ける。そうやっているうちに、主様たちは魔力枯れを起こして、圧縮水を撃てなくなるだろうとの目算である。

 が、主様はすでに10発以上圧縮水を撃ってきているが、魔力も水も枯渇する様子が見受けられない。

 まあ、烈牙さんとマーチが上手く飛び回り、主様を間引いてくれているのは助かるが、やはりオレの耐久力の方が先に底を突きそうだ。



 何度目か、何十度目か、主様の圧縮水を受け止め、ついにオレの魔力は底を突いた。ポーションで回復すれば良いのだろうが、主様は一体一体タイミングをずらして攻撃してくるものだから、その隙もない。


 ズビシュウ!!


 ああ、これでまたゲームオーバーか、と思った次の瞬間。大盾がオレの前に現れ、主様の圧縮水を受け止める。


「ごめん。遅れたわ」


 マヤのご登場だ。連絡しておいて良かった。


「どこぞのヒーローじゃないんだから、もっと早く来てくれよ」

「街だって大変だったのよ」


 そう言うマヤだが、オレが吹っ飛ばされる主様の圧縮水を、しっかり大盾で受け止めてくれている。

 上空を見れば天使たちがマーチと烈牙さんに合流し、主様に攻撃を仕掛けていた。


「ハァーーーーー」


 オレが長いため息を何度か吐き、ポーションを飲んでいる間に、戦闘はすっかり終わっていた。



「リン、見て」


 マーチに投げ渡されたのは、首の無い亀の死体だ。


「なんだよこれ?」

「ヌシサマの素体よ」


 これが?


「って、まさか!?」


 オレの思考を読み取り頷くマーチ。


「どういうこと?」


 とマヤが首を傾げている。


「つまり、生きたままの亀を素体にして、主様は魔物にされたんだ」

「それだと何が起こるの?」

「つまり……」


 とそこでオレは何かが湖からこちらを見ていることに気付いた。


「あ?」


 と声を出した次の瞬間には、オレたちは湖からこちらを見ていた存在に食われてしまったのだった。

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