第142話 修行1
「いやぁ、お久しぶりですねえ」
トレシーの街でオレたちを出迎えてくれたのはオペラさんだ。どこでオレたちがこの街に来るって聞き付けたんだろう。オレたちが以前泊まっていた常宿に行くと、そこに音符印の馬車が停まっており、その中からオペラさんが降りてきた。そのホクホク顔から商売が上手くいってるのは窺える。
「オペラさんもお元気そうで」
「ええ。リンタロウくんの考案した塩胡椒も、星胡椒も今やアウルムの食卓に欠かせないものになりつつありますからね。安定収益でウハウハですよ。さらにはバールド族の村との取引をいち早く行えたことも大きかったですな。あそこは今後、アウルムの武器庫になるでしょうから。今回はどのようなご用件ですかな。リンタロウくんの為ならば、どんな物でもご用意いたしましょう」
ホント、元気だなぁ。
「ではお言葉に甘えて。ポーションをできるだけ多く揃えてもらえますか? お金はちゃんと払いますので」
今までニコニコ顔だったオペラさんが、ポーションと聞いて剣呑な顔になる。そしてススッとオレの耳元まで顔を近付けると、小声で、
「戦争ですか?」
なるほど。ポーションを大量に頼む=戦争準備って図式になるのか。オレは思わず、「ふふ」と笑ってしまった。
「違いますよ。これから相当厳しめの修行が待ち構えているので、そのためです」
オレの言に顔を明るくするオペラさん。
「そうでしたか。これはとんだ勘違いを。ではすぐに用意致します」
オペラさんはオレたちに一礼すると馬車に乗り込み去っていった。
宿でそれぞれ部屋を取ると、マヤたちと別れてオレたちはいつぞやのゴブリンの棲み家へ向かった。
当然ゴブリンなんていない。ただ修行をするのにある程度の広さが欲しかったのだ。
「で、どうするの?」
とオレの前で腕組みをしているマーチと烈牙さんに尋ねる。カナリアは木の上から見物だ。
「まずは自力を上げてもらう。技術的なものはそれから」
「はあ……? 自力を上げるってどうするの? 筋トレとか?」
「バカなの?」
直球だな。
「グラディオマギアで斥力ブレードを出して」
オレは言われた通り斥力ブレードをグラディオマギアで展開する。
「そのまま翼を生やして」
「無理です」
斥力ブレードは全魔力を使うのだ。翼を生やすのに魔力を割いたら斥力ブレードを維持できない。
「やるのよ。言ったでしょ、自力を上げてもらうって」
なるほど、自力を上げるとは魔力量を増やすことなのか。確かに魔力量が増えれば斥力ブレードを維持しながら翼を生やして機動力をあげられるな。いや、翼を生やさなくてもバフで機動力をあげられるか。何なら斥力ブレードと斥力バリアを両方展開できるな。
「うし! やってみるか!」
五秒と持ちませんでした。
「はいはい、休んでないで続ける続ける」
とマーチに言われて、オレは地味な魔力上げをひたすらすることになった。
そんな地味なオレの監視をカナリアに任せて、マーチと烈牙さんは立ち合いで技を磨き合う。
「リンさん、気がそぞろになっていますよ。集中してください」
カナリアも自分に役割をもらえて頑張っていた。
「あ〜〜、う〜〜」
烈牙さんに襟首掴まれ、引き摺られるようにして宿に戻ってきたオレ。
「お疲れ〜」
テラス席ですでに食事を始めていたマヤたちから声が掛けられる。
「マジ地獄」
オレはマヤの対面に座り、体をテーブルに投げ出す。
「相当しごかれたみたいね」
「しごかれたっていうか、あんな地味なことやったの、この世界に来た当初以来だよ。変なスイッチ入ってホームシックになりそう」
「なにそれ?」
とマヤには果汁100%のジュースを飲みながら聞き流されてしまった。
何ともつまらない、と思いながら視線を辺りに巡らせると、マーチと天使たちは別テーブルで凄い勢いで食事していて、烈牙さんは一人席でビールを飲んでいた。ビールがあるんだから麦はあるんだよなあ。
オレとマヤの席にはカナリアがいて、焼き鳥をついばんでいる。共食いじゃね? と思ってしまうが、良いのだろうか? 鶏じゃないから問題ないのか?
「で、マヤの方はどうなんだ? 確か盾の当てがあるとか言ってたろ?」
マヤは先の戦争で大盾を烈牙に壊され、今はサブルムの黄金郷で手に入れた黄金の中盾を使っている。残念なことに黄金郷には大盾は無かったのだ。
「それがさあ。またなのよ?」
「また? 何が?」
「欲しければ武闘大会に出て優勝しろ、だって」
はあ、またか。マヤのお師匠さんも厳しいな。
「奇遇ね」
とそこに別テーブルのマーチが入ってくる。
「リンの修行の仕上げも、武闘大会を考えているの」
「へえ」
何ですか? マヤさん。その獲物を見つけたような鋭い目は。っていうか大会出るなんて聞いてないぞマーチ。
「ほう、大会か。面白そうじゃのう」
そこにもう一人参戦を思案する漢がいた。
「烈牙さんも出るつもり?」
「何か問題でも?」
今度の大会も荒れそうだなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます