第140話 下天
「もう、戦争はうんざりなんですけど」
オレがそう言うと、その場にいた全員が同意した。
全員。そう、全員だ。今回の戦争に生き残ったのは、両国合わせ、戦争に出なかった者も合わせ、100人を下回った。それだけ凄惨な戦いだったのだ。何やらかしてんだオレは。
戦争終結後、勝ったオレは全員を呼び出し土下座した。頭を地面に擦り付けて、泣いて謝っていた。
だがオレを責める者はいなかった。オレの仲間も、ともに戦ったレーゲンランドの天使たちも、オレに親兄弟を殺されたヴォルケランドの天使たちも、誰も彼もオレを責めなかった。それがなおのこと辛かった。
戦争終結でここまで疲弊したことのない天使たちは、両国間で和平条約を結び、今後オレが生きてるうちは両国間で戦争しないことを誓い合った。
だがそれで解決されないのが食糧問題である。
元々この戦争には口減らしの意味合いがあったので、その意味では大成功と言えるのだが、今後戦争をしないとなると人口は増える一方だ。
早急に浮遊島に適していて、量が獲れる作物が求められた。
「考えられるのはじゃがいもか」
「そうなの?」
とマヤ以下一同首を傾げている。
「ああ。じゃがいもはアメリカ原産で、アンデスの高地やアイルランドなどの寒冷地でも作られてきたものだ。またジャカルタイモからじゃがいもになった説もあり、暖かい土地での生育も当然可能だ」
「え? じゃがいも凄すぎじゃない?」
「その分病気や虫に弱くて連作障害も出やすいから、同じ土地で繰り返し育てることには向いてないかも」
「ダメじゃん」
そう言われてもな。皆がっかりしている。
「連作しなけりゃいいんだよ。確かネギと輪作すると連作障害が起こらないはずだ」
「じゃあ、じゃがいもとネギを手に入れれば、慢性的な食糧不足に終止符が打てるのね?」
天使たちは喜んでいるが、ブルースもマーチも複雑そうな顔をしている。
「どうかしたのか? 二人とも」
二人は顔を見合せ、ブルースが口を開く。
「その、じゃがいも? と、ネギ? という野菜、見たことも聞いたこともないのだが?」
…………マジか!? じゃがいもとネギが存在しないだと!? どんな世界だよ!
オレは思わずブックマンの方を見るが、さすがにブックマンも野菜は門外漢らしく、お手上げのポーズを返されてしまった。
「つまりオレたちは、今まで誰も見たことも聞いたことも、食べたこともない食べ物を探し出さなきゃならないってことか?」
オレの問いに頷くブルースとマーチ。ああ、またオレの平穏が遠のいていく音が聞こえる。
「しかし、あのリンがクランを持つとわねえ」
感慨深げにオレたちのクラン登録をしてくれているのは、アインスタッドの冒険者ギルドのギルドマスター、ハッサンさんである。
あの後、さすがにオレたちだけでじゃがいもとネギを探し出すのは無理だろう、ということになり、オレたちの他に地上に降りてじゃがいもとネギを探してくれる有志の天使を募った。
名乗りを上げたのは10人。
彼らとともに地上へ舞い戻ったオレたちは、折角ならば、とクランを結成することにしたのだ。
「しかし、一郎、
「まあ…………、そんな感じ」
曖昧に濁しておく。なんでも天使の名は真名と呼ばれ、人前で発してならないそうだ。当然こんなの適当な仮名である。
ついでに言えば、今、天使たちは翼を隠している。でなければアインスタッド中が大騒ぎになってるからな。天使たちは背中に翼が生えていないことに違和感があるらしく、もぞもぞしているけど。
「で、クラン名はどうするだ?」
…………! 考えてなかった! え? どうしよう。全然思い浮かばないんだけど。
「双翼調査団で!」
皆がちょっと嫌そう顔をしている。なんかごめん。
「双翼調査団ねえ?」
とハッサンさんはオレたちをぐるりと見回す。
「天使なんて眉唾だとオレは思うけどな」
その天使が目の前にいるんだよ。天使を捜すんじゃなく、天使が捜すんです。
アインスタッドで宿を取りのんびりとした時間が流れる。
天使たちは下界の飯は美味い美味いと食べているが、アインスタッドの飯はやはり不味い。
外の空気を吸ってくる、とオレが宿の外に出ると、ほどなくして烈牙さんも宿から出てきた。
「しかし、流れるように天使たちを地上に降ろせたのう」
「たまたまですよ」
オレと烈牙さんは戦争の前に一つの約束をしていた。敗けたらその国の天使を連れて地上に降りる、と。
何せ浮遊島は貧国だ。勝つにせよ敗けるにせよ、生きていくだけで精一杯である。ならばいっそ地上の方が稼ぎもでき、腹もふくれるだろう、とのオレたちの勝手な持論だったが、まさかこんな形で天使たちを地上に降ろすことになるとは。人生、一寸先は不思議だらけだ。
ハァー、じゃがいもとネギ、見付かるかなあ。
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