第101話 恩義

「爆弾岩?」


 キャンプに帰り、水銀をへリングに渡したついでに、爆発する岩の魔物の素体を調べてもらった。ちなみに岩の魔物の素体も、ヒドラと同じ溶岩のような鉱石だ。


「ああ。衝撃や魔力に反応して爆発する変わった鉱石だ」


 そう言ってくれたへリングは、嬉々として水銀を自前のテントへ運び入れ、


「邪魔するなよ」


 とオレたちに一言釘を差すと、テントに閉じてこもってしまった。



 へリングがエリクサーを作っている間、暇になったので、マヤ、マーチ、ブルースは子供たちと遊んでいる。オペラ商会から食料も届いたので、大人たちは安心して横になって養生中である。

 オレはというと、爆弾岩を触りながら考え込んでいた。


(これがあれば、これを火薬代わりに銃とか造れるんじゃないか? でも形が不揃いなのがなあ。形を揃えるために衝撃や魔力を与えたら爆発しちゃうし)


「何難しい顔してんの?」


 マヤが声を掛けてきた。いつの間にか周りにはマヤの他にも子供たちが四、五人いて、心配そうにこちらを見ている。


「頭が痛いの?」

「腹が痛いとか?」


 どうやら心配してくれていたようだ。オレは首を横に振る。


「じゃあ、どうしたのよ?」


 オレは考えていたことの説明をした。



「なるほどねえ。でも銃って必要?」

「だな。魔法の世界で銃ほど無用の長物もないからな。単なる趣味だよ」


 オレの答えるに肩をすくめるマヤ。


「まぁ、今ややることないし、好きに考えてるといいわよ。行きましょ」


 それだけ言うと、マヤは子供たちを連れてマーチやブルースの方へと戻っていった。


「銃ですか、ありますよ」

「うわっ!?」


 いきなり後ろから声を掛けられ、振り向きざまに飛び退くと、そこにはぷるぷる震える体を杖で支える長老がいた。


「え? 銃、あるんですか?」


 長老は頷くと、地面にどっかと座り込み、杖の先を一つの岩に向ける。


 パァンッ!


 火薬の炸裂音とともに、岩に穴が空き、杖の先からは煙が上がっている。


「仕込み銃か!」


 驚きながら銃と岩と長老を交互に見ると、長老は立ち上がり、


「こちらへ」


 とキャンプの奥へと進んで行く。


「ブルース!」


 オレはブルースを呼び寄せで、二人で長老の後を付いていった。



 長老のテントの中で座っていると、奥に行っていた長老が、二丁の銃を持ってきてくれた。フリントロック式っぽい長銃と短銃だ。


「これは何だ?」


 ブルースが首をかしげている。


「銃という武器だよ」

「これが銃か」

「銃自体は知っているんだな」

「異国には魔法を使わず、弓や槍とも違う遠距離武器がある、ってだけはな」


 なるほど。


「我々としても銃の製造のことは秘匿にしておりましたから、リンタロウ様の口からその言葉が出たときには胆を冷やしました」


 なんか言っちゃいけないことを口走っていたようだ。


「我々バールド族は、代々爆弾岩の採れる土地で暮らしておりました。もう百年も前になるでしょうか、我々の一族より銃を生み出した者が現れたのは。それは時代の王に献上され、砂漠はサブルムとして平定されたのです」


 時代の影に銃あり、か。


「そして時代は巡り、今度は国内で波乱が起こったのです。それは王族と教会との戦いでした」


 宗教がらみか、厄介だな。


「昔は平民たちが助けを乞う駆け込み場所のようだった教会も、幾年を経ると貴族の中でも教会にお伺いを立てる者たちが増えてきました。それは時に王の意向に異を唱えるまでになってきてしまったのです」


 うわあ、それは不味いなあ。


「国は王家こそ絶対の王族派と、教会の教えこそが絶対の教会派に二分され、それは内乱という戦争へと発展してしまったのです」

「それで狙われたのがあんたらバールド族だったと」


 ブルースの言に頷く長老。


「確かにこの世界には魔法があり銃など不要、と言う者は国にもおりますが、だからと言って武器を製造保有している者たちを野放しにもしておけません。両者から命を狙われる立場になった我々は、命からがらこの地に逃げ延びてきたのです」


 ハードな人生だなぁ。


「でも何でオレたちに銃のことを教えてくれたんですか? 黙ってれば良かったのに」


 長老は首を横に振る。


「恩には義で返すのが世の道理。我々に、あなた方のために銃を造らせてください」

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