第100話 丹砂
キャンプに戻ると、へリングがいた。
「どうしてここに?」
首を傾げるオレたちに、へリングはフンと鼻を鳴らして応える。
「あんたらを待ってたら日が暮れてしまったじゃないか。私は気が短いんだよ」
少し照れ臭そうにへリングは顔を背けた。
まあ、何にせよ丁度良かった。次の目的である水銀を採れる場所に向かうのに、マジックボックスいっぱいの硫黄は邪魔だったのだ。
オレたちがポーチから大量の硫黄を取り出すと、難民たちは驚いていたが、へリングは、
「フン、まあ、これならギリギリかね」
と悪態をこぼす。
身軽になったオレたちはキャンプ沿いの川を上流に上り始めた。その先、おそらく源流に水銀の産地がある。
途中まで子供たちも付いてきたが、爆発する岩の魔物? がゴロゴロ転がってくるようになったので、その時点で引き返してもらった。
道がだんだんと険しくなっていく中、峡谷の岩棚の下方からそれは噴き出していた。水とともに銀色の液体が川へとドバドバ流れ込んでいる。
「リン、あれが体に悪いのは、私でも分かるわ」
「だろ」
マヤの一言に一同同意する。
さて、あの岩棚まで登れれば、水銀の回収は楽にできるだが、そうは問屋が卸さないということなのだろう。岩棚までの崖道は、朱色と銀色のスライムでいっぱいだった。
「朱色は丹砂だっけ?」
「ああ」
前衛で大盾を構えるマヤに、丹砂スライムが液体を吐いてくる。
大盾でそれを防ぐが、飛沫がマヤの頬に当たった。
「いっ!? あつっ!?」
「大丈夫か!?」
「分かんないけど、あの液体ヤバい!」
オレたちは一旦退却することにした。
マヤの頬にマーチがへリングからもらった塗り薬を塗布すると、さっと火傷が治る。
「あの液体って何だったの?」
「多分、硫酸だ」
丹砂は水銀と硫黄の化合物だが、硫黄は硫酸の原料なのだ。
「硫酸!? ってヤバいんじゃないの!?」
塗り薬で回復するレベルだから、どれくらいの濃度か分からないが、まともに食らったらヤバいだろうな。硫酸をまともに食らった大盾が酸化してないのは、土の民の仕事が良いのか、火焔鉱の性質か。
「この調子だと、水銀スライムも水銀を吐いてくるだろうな」
「水銀もヤバいんでしょ?」
「まぁな」
でなきゃへリングがグローブを持たせたりしない。
「ブルース」
「催眠は効かないぞ。あいつら耳がないからな」
聞こうとしてた回答を先に言われてしまった。しかも効かないのか。
「う~ん、迂回して、上から岩棚に降下するか」
「でもそれだとあのスライムたちが残る」
反論したのはマーチだ。何か問題があるのかだろうか?
「あのスライムたちをこのまま放置してたら、下流の難民たちに悪さするかも知れないでしょ」
なるほど。それは大問題だな。
「仕方ない。オレが身銭を切るか」
オレたちはマスクとグローブを装備して、崖道の足場を席巻するスライムたちにジリジリと近寄っていく。そして丈夫な大盾に守られながら、スライムたちの液体飛ばしが届かない距離から、オレは硬貨を撃ち出した。
食らった丹砂スライムはひしゃげて素体(丹砂)と魔核に分解される。
「どうやら効くようだな。もったいないが」
オレが撃ち出したのは、硬貨は硬貨でも、いつもの銅貨ではなく、金貨だ。
なぜ金貨なのか。銅貨では硫酸に耐えられないからである。金は金属としては柔らかい物質だが、なんといってもその価値は普遍性にある。錆びることが無く、酸でも王水でなければ溶かすことができない金ならば、スライムたちが硫酸を吐いてこようが、水銀を吐いてこようが、お構い無しだ。
ただし柔らかいので、一度使うとひしゃげて金貨としての価値が無くなるのが珠に瑕だが。まあ、金としてはまだ十分に価値があるからいいか。
こうして並みいる丹砂スライム水銀スライムを蹴散らし、水銀の湧き出る岩棚へとたどり着いたオレたちは、また大量の水銀をマジックボックスへと仕舞い、キャンプへと帰還したのだった。
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