第94話 フリオ
「殿下! フリオ殿がご乱心です 女王陛下が!」
その一報はゲロー討伐の宴の後、オレたちにあてがわれた部屋で、フレッド殿下と今回の戦いの労を互いに労い合っていた時にもたらされた。
慌てて皆で女王陛下の部屋へ向かうと、そこには無数の屍に囲まれながらも、堂々と仁王立ちのフリオの姿があった。
「姉上!」
フレッド殿下が奥で倒れている女王に大声で呼び掛けるが、ピクリとも動かない。お付きが異変に気付いてから、オレたちに知らせて、ここにオレたちが到着するまでの時間を考えると、残念だがすでに息はないと考えるべきだろう。
「フリオ! どういうつもりだ!!」
叫ぶフレッド殿下。こちらを見据えるフリオの顔は赤いし、目が据わっている。もしかして酔っ払っているのか?
「彼女が悪いのだ。オレの求婚を断るから。オレは無敵のフリオ様だぞ! 誰のお陰でゲローを退治できたと思っている!」
手前味噌だけど、オレだよね?
「オレが最強なのだ! ならばオレが王の座に就くべきだろう?」
やはり酔っているな。たとえ思っていても、普通は実行しない。
「フリオーッ!!」
フレッド殿下がフリオに炎の斧で斬り掛かる。フリオもそれを炎の斧で迎え撃つが、酔っているからだろう、フレッド殿下の斧に簡単に弾かれ、殿下の一撃が袈裟懸けにフリオを斬り裂いた。
はずだった。だがフリオは無傷で
驚き数歩後ろに下がる殿下に、斧を拾い直したフリオの凶刃が迫る。
「殿下!」
オレの声にハッとした殿下が、なんとか斧でそれを受け止めるが、動揺が動きを鈍らせ、フレッド殿下はオレたちの元まで押し戻されてしまった。
「どうなっている……?」
誰に対して呟いた訳でもないが、皆の視線がオレに集まる。
「殿下、もしかしてこの国の伝説に、ドラゴンの血を浴びると不死身になる。なんてものはありませんか?」
オレの問いに歯軋りをするフレッド殿下。
「そう言うことか」
殿下の反応から、そう言った伝説があるのだろう。つまりフリオはドラゴンを殺し、その血を浴びたのだ。おそらく、ゲローの子供の血を。それならばゲローがあんなにもムキになってこの街を襲撃していたことにも筋が通る。子を殺したフリオを倒すために、ゲローは何度も街を襲撃していたのだ。
「どうすればいい?」
またフレッド殿下から声が漏れる。弱点は、ある。右手だ。何故ならゲロー戦でもオレとの対戦でも、フリオは右手を怪我していた。おそらく右手に斧を持ったまま血を浴びたので、右手だけが不死身に成り損ねたのだろう。だが、右手を斬り落としたところで、不死身のフリオにとってどれほどのダメージなのか分からない。ならば、
「ブルース」
ブルースが角笛を鳴らすが、フリオは大股でこちらにやってくる。くっ、不死身だから効かないのか、酩酊していて音が耳に入っていないのか分からん。それなら、
「申し訳ありませんフリオ様」
オレは皆が驚く中、フリオに対して膝を付いて頭を垂れる。オレの行動にフリオの足が止まった。
「さすがは勇者の中の勇者にして、王になるべきお方」
「フッ、分かっているではないか」
言って高笑いをするフリオ。
「ここは新たに王となられるフリオ様を祝して、前祝いといきましょう」
ニヤリと笑うオレに続くのはブルースとマーチ。
「すぐに宴席を設けさせます」
「明日の戴冠の景気付けに、今宵は大いに飲み明かしましょう」
「やっと飲み潰れたか。ホントに朝になっちまったな」
訳も分からないままオレの音頭の元に酒席は設けられ、王宮中の酒がなくなるんじゃないかというほどフリオは酒を飲んだ。そして酔い潰れたのは、もう空が明るくなり始めてのことだった。
「説明してもらおうかしら?」
「そうだな。でもその前に、丈夫な鎖と重りを持ってきてくれ」
しばらくして持ってこられた鎖でフリオを縛りつけてもらうと、なるほど、と皆から声が上がった。
「それで牢屋に叩き込むのね!」
と喜面のマヤ。
「そんな甘い罰で許す訳ないだろ。海に叩き落とすんだよ」
これにはフレッド殿下も大喜びだった。
「それは良いですな! おい! 誰か箱を持ってこい! このままでは抜け出すかも知れん。箱に詰め込んで鍵を掛けて海に投げ込むぞ!」
こうしてフレッド殿下の号令によってお付きたちが持ってきた箱に、フリオはぎゅうぎゅうに詰め込まれ、鍵を掛けられたその箱は、朝日眩しい極寒の海にへと投げ込まれたのだった。マヤたちが若干引いていた。
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