第90話 土の民

「ぬうわああああああああ…………!!」


 ゲローから逃走中、穴に落ちたオレたちは、穴の中を滑り落ちていた。まるでジェットコースターを延々と降っているようで、おむすびころりんのおむすびにでもなった気分だ。


「…………あああああ!! げひゃっ!!」


 やっと止まった先で折り重なるように潰れるオレたち。巨人たちが重い。


「大丈夫かい?」


 とはフレッド殿下。


「その言葉は退いてから言ってください」


 オレに言われて巨人たちが慌てて上で動くものだから、オレたちは巨人の手やら足やらでぐっちゃぐちゃである。


「大丈夫かい?」

「え、ええ、なんとか」


 文句の一つも言ってやりたいところだが、オレのパーティーは皆大人だ。巨人たちも悪気があってそうしている訳じゃないと分かっている。笑顔の対応である。


「しかしずいぶんと落とされてしまったけど、登るのが大変そうだ」


 幸い落ちた穴は急ではあるが坂道と言って良いものだった。これならなんとか登れそうである。ここはオレたち人間でも屈まないといけないぐらい狭く、巨人たちは四つん這いになっている。

 さっさと外に出ようと坂道に足を掛けたところで、


「リン、横穴があるぞ!」


 とはアキラである。ハァー、悪い予感しかしない。



 狭い横道を屈みながら進むと、行く先に火でゆらゆら揺れる影が見える。人影だ。


「誰かいるみたいだな」


 オレは全員を一旦停止させ、ブルースを斥候として先に行かせる。


 先の様子を見て引き返してくるブルース。


「どうだった?」

「小人がいる」

「小人?」


 首傾げるオレに答えをくれたのはフレッド殿下だ。


「おそらく土の民だ。我々は土の民の領域に足を踏み入れてしまったらしい」


 これまでニコニコ顔だったフレッド殿下が困った顔をしている。


「なんか、問題あるんですか?」

「土の民は採掘や鍛治を得意とする種族なのだが、他種族とあまり関わりを持とうとしない種族なのだ」


 採掘と鍛治が得意な種族が、どうやって他種族と関わらずに生きていけるんだ? これもゲームの仕様なんだろうか?


「そこにいるのは誰だ!」


 とこの先どうするか考えていると、先の方から剣呑な声を掛けられた。


「貴様らは巨人族! この場に忍び込むとは、何を考えている!」


 穂先が燃える槍を構えた、人間の1/3程の大きさの小人がそこにいた。

 う~む、仲が悪いのはホントのようだ。


「すみません、穴から落ちてしまっただけです! すぐに立ち去ります!」

「むむ? 南方人もいるのか? どうなっている? 益々怪しい。オレと一緒に来てもらおうか」


 ハァー、やっぱり面倒臭いことになった。



「ではゲローに追われて穴に落ちてここに来た、と?」


 おそらく長老らしい白髭をたくわえた小人が問う。オレたちは地下とは思えないドームぐらいある広間に連れてこられ、周りを小人たちに囲まれながら、経緯を説明した。


「はい。ここに何かするつもりで来た訳じゃないんです」


 オレが応えると、周りの小人たちから「嘘だ!」「信じられるか!」と罵声が飛ぶ。それを手を上げて制する長老。


「確かにおぬしらが来た穴道の先には、巨人たちの村がある。言い訳として筋が通っている」

「ではこいつらの言うことを信じて、そのまま帰すんですか!?」


 小人たちから飛ぶ非難の声。


「いいや。こやつらがゲローに襲われたのは自業自得。それでここに来たのも許されることではない」


 自業自得? どうゆうことだ?


「よって沙汰を言い渡す」


 うわあ、これって処刑されるパターンだよね。最悪、オレたちプレイヤーの命を犠牲にしてでも、他の皆をここから逃がそう。オレはアキラとマヤに目配せをする。頷く二人。


「おぬしらが持つ食料を、全て置いていってもらう」

「…………は?」


 思わず聞き返していた。がオレの聞き返しは歓声を上げる小人たちによって掻き消されてしまった。



「うおお! 魚だ! しかも大量にあるぞ!」

「こっちを見ろ! 野菜がこんなにある!」


 なんか、魚や野菜に涙流して喜んでるんですけど。


「これはなんだ?」

「あ、ああ、それは星胡椒といって……」

「胡椒!? これが胡椒か!!」


 …………うん、なんか喜んでもらえて良かったよ。


「いや、すまんのう。ワシら、ずっと地中で暮らしとるから、こういったものには縁遠くてのう」


 と先ほどまでとは打って変わって朗らかな長老。


「いえ、皆さんの領域を侵してしまったのはこちらですから、これでその弁償になるなら安いものです」


 まあ、食べ物はまた買い直せば良いしね。


「いやいや、充分どころではない。なにせ胡椒まで入っておるからな。これはこちらもお礼をせねばならんな」

「お礼、ですか?」


 といきなり言われてもな。


「あ、それならさっきの火が出てる槍が欲しいッス」


 とは強欲なアキラの台詞。


「ふ~む」


 悩んでるな長老。アキラに、あまり困らせるな、と言おうとしたところで、長老が口を開く。


「おぬしら自身が素材を採ってくるなら、造ってやろう」


 何でもここより南の穴道を進んだ先に、火焔鉱なる鉱石の鉱脈があるらしいのだが、そこに魔物が住み着いて困っているらしい。それを退治してくれたなら、オレたちの装備をその火焔鉱で造ってくれるそうだ。


「火焔鉱ならば、ゲローの冷凍吐液にも対抗できようて」


 そう言われては、行くしかなさそうだ。

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