第57話 本大会予選

 そして本大会予選は続き、マヤの出番となった。

 大盾に手斧を構え舞台に立つマヤは、すでにどこか強者の格のようなものが備わって見えた。


「あいつがあの修練場の選手か」

「女じゃないか」

「路傍でケンカふっかけてきたやつを、片っ端から治療院送りにしているらしいぞ」


 やはりマヤは注目選手らしく、観客やプレイヤーから様々な呟きが聴こえてくる。

 さて、どんな闘い方をするのやら。



 銅鑼が鳴らされると、マヤに向かって一斉に攻撃が仕掛けられる。

 オレの時にはそんなことなかったから、マヤがそれだけ危険視されているのが分かる。

 剣を持った前衛攻撃職が四人、マヤに斬りかかる。その一人にザクッとマヤが投げた手斧がヒットし消滅。いきなりのことだが他三人はお構い無しに突っ込んでくる。

 マヤは長方形の大盾を横にすることで三人をカバー、しかも三人の攻撃を盾で防いだと思ったら、盾ごと三人を押し潰す。そして首だけ出ている三人へ、腰のポーチから新しい手斧を出してスパンと素っ首はね飛ばした。

 そこへ上から覆い被さるように新たな攻撃が迫るが、大盾をぶん回しその縁で攻撃。相手の体はくの字にひしゃげて消滅した。

 更に小型のファイアボールが三発飛んでくるが、マヤはそれを大盾で防ぎながら、撃ってきた相手に突進していく。途中に誰がいようとお構い無しだ。そしてファイアボールの使い手を袈裟斬りにする。



 マヤの試合は終始そんな感じで進んだ。マヤの大盾は鉄壁で、更にマヤはよく動く。移動要塞のようなマヤに、参加者は誰一人傷を付けることができなかった。

 更に手斧である。近ければそのまま斬り、遠く離れれば投げて突き刺す。大盾を軽々振り回す膂力で振るわれる手斧は、見ている者に恐怖を与えるに十分な威力だった。ストックもいくつもあるようで、弾切れもおこさなかった。



 終わってみれば十九人の猛者相手に、マヤのワンサイドゲームだった。その危なげのない試合展開から、マヤの強さが窺えた。


「強すぎじゃね? マヤ」

「何言ってる。リンもマヤもすでにここら辺の冒険者とは格が違ってきてる。予選じゃこんなもの」


 マジかー。オレの強さはよく分からんが、仮に中の上と仮定したとして、マヤの強さは上の下か上の中はあるよなあ。礫弾でもナイフでも、あの鉄壁を打ち破るイメージが湧かないんですけど。



 さてマヤの試合も終わったし帰ろうかと思ったら、マーチに袖を引っ張られて止められた。


「どこ行く? もう一人見ておくべき相手がいる」

「?」

「レクイエム」


 ああ、そうでした。

 レクイエムの試合はマヤの次の次だった。


「あの、フードを被った男がそう」


 濃緑色のフードを目深に被った男は一見すると悪い魔法使いのような雰囲気だった。まあ、悪いことの片棒担いでるんだから、悪いのは合ってるんだけど。

 だが闘い方は違っていた。試合が開始されると、レクイエムはどこかに忍ばせていたマジックボックスから大鎌を2つ取り出したのだ。しかも柄には鎖分銅までついている。


「デカイ鎖鎌の二刀流!? なんだそりゃ!?」


 アレも何かのロールプレイなのか? そんな些細な疑問は試合開始直後に吹き飛んだ。

 敵が近寄れば大鎌で一刀両断、離れればその大鎌を投げつけて一刀両断。レクイエムは遠近誰にも近寄らせず、大鎖鎌をまるで生き物のように舞台の上で縦横無尽に暴れさせて、その日行われた予選を最速タイムで突破したのだった。



「強かったな」

「ええ、強かった」

「そんなにか?」


 宿のテラスで食事がてら、フーガに付いてたブルースと情報のすり合わせすることになっていたのだが、オレの口から出てくるのは愚痴である。


「街でもマヤとレクイエムの二強だろうと言われていたな」


 ハァー、そこに割り込まないといけないのか。気が重い。


「フーガの方はどうだった?」


 オレの質問にブルースは食事の手を止める。


「中々尻尾は掴ませないな。この数日、この街では見かけない他所の金持ちどもとつるんでるようだが、全うに商談をしていて、賭けをしている素振りを見せない」


 ああ、やっぱりか。でも短気なオッサンだ。予定にないことが起これば、慌ててボロを出すと思うんだよなあ。


「やっぱオレがレクイエムに勝たないとダメか〜」


 頷くマーチとブルース。勝てる気はしないが、明日の本選トーナメントには全力で当たるだけだな。上手いことマヤとレクイエムがマッチングして、潰しあってくれないかなあ。

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