第41話 湖の街

「最近どうなんだ?」


 その日の朝、朝食にシリアルを食べていると、出掛ける前の父にそんなことを言われた。

 最初、学校のことを言っているのかと思ったが、16年生きてきて一度も気にされたことがないので頭から外した。そして自分が与えたゲームのことを言っているのだと思い至り、


「ああ、うん。楽しんでるよ」


 と一言発して、またシリアルを食べ始めた。

 それに対して父は「そうか」と一言だけ漏らし、そのまま会社に行ってしまった。

 らしくないやり取りが頭から離れず、オレはシリアルを食べる手を止めると、窓から父の姿を追っていた。

 そこには、なんとなく足取り軽く歩く父の姿があった。



「いや、そんな青春小説みたいなことを言われても、オレにどうしろと?」


 学校でアキラにその話をしたが、本題はそこではない。


「実は楽しいか? と聞かれると今はそれほど楽しくないんだよ」

「? 何があったんだ?」

「バカなのか?」

「おい!」


 アキラから安定の突っ込みを受けつつ話を先に進める。


「何もないからつまらないんじゃないか」

「何もない? 今トレシーにいるんだろ? あそこは修練場が沢山あるからやることあるだろ?」


 そう、トレシーはツヴァイヒルの南、アインスタッドのさらに南にある大きな湖のほとりの街で、修練場がいくつも林立している修練の街だった。

 そんな街でオレたちはバンジョーさんの紹介頼みで一棟の修練場に入門した。

 後で知った話では、そこはトレシーでも名門の修練場で、どうやって入門したすればいいのか、プレイヤーの間では謎とされている場所だったらしい。

 そこでオレは、1日で破門になった。オレだけが。マヤはそのまま今も名門修練場で修練に励んでいる。

 なぜ破門になったのか? 簡単な話、オレの運動音痴が原因である。

 その修練場は格闘系の修練場で、そこでやっていくにはある程度の格闘センスが必要だったのだ。だがオレはその要件を満たせていなかった。いくら紹介と言っても要件を満たせていない人物を修練場に置いておく訳にもいかない。なのでオレは破門となったのだ。



 オレもそれは仕方ないことだと思い、じゃあ、初心者歓迎の修練場で一から鍛えようと思ったのだが、そこでも門前払い。どうやらオレはオレが思っていた以上に格闘センスがなかったようだ。

 ならば魔法使い系の修練場へと足を運べば、基礎魔法をバフまでしか習得していないようではダメだ、とこっちも門前払い。いや、ディメンションも覚えていると反論したのだが、アレは覚えられるものじゃないと聞く耳を持たれなかった。

 なのでオレは格闘系からも魔法使い系からも閉め出しをくらい、一人湖の見える公園のベンチで昼間から黄昏ていた。

 公園では三人の大道芸人が、芸を演じていた。

 一人のラッパに合わせて、二人が舞踏のような演武を見せていた。


(上手いもんだなぁ)


 などと感心していたが、それでも認識が甘かった。二人の息の合った演武だと思っていたのだが、よく見ると、片方が人形だったのだ。


(どうなってんだアレ? いや、アレも魔法なのか)


 恐らくパスで人形と人間を結び、操りながら演武を舞っているのだ。


(スゲェ、人間業じゃなくね?)


 NPCだろうから人間じゃないのかもしれないが、それでも感心を通り越して感動してしまった。

 演奏が止み、演武が終了すると、観客が惜しみ無い拍手を二人に贈る。オレもいつの間にか拍手を贈っていた。

 演武を舞っていた演者は、操る人形に小箱を持たせ観客の間を回らせ金を回収する。そうしている内に人形はオレの前までやって来た。

 もちろんオレにも金を払うつもりはあった。それだけ良いものを見させてもらったという気持ちがあったからだ。

 オレがポーチから金を取り出そうと手をポーチに入れた瞬間だった。人形の持っていた小箱からズバッとナイフが飛び出してきたのは!

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