第10話 堂々巡り
それからは来る日も来る日もテレキネシスの練習だった。
石に砂をくっつけては手から離し、石に砂をくっつけては手から離しの繰り返し。途中で自分は何をやってるんだと自問自答し、いや、ここで止めたら今までの苦労が無駄になるから、と止めるに止められず、気づいたら八月になっていた。
「よう」
アキラの声に振り向くが、岩にくっついた石も砂もびくともせずにそのままだ。塵一つ落ちていない。オレは岩から約5メートルほど離れている。
「順調みたいだな」
「順調……なのか? 他にゲームをやったことがないから比べられないな」
「いや、スゲエって。こんな岩全面に石がくっついてるのなんて見たことねえよ」
「まあ、何の使い道も無いけどな」
「あ、そこ気づいちゃった?」
「途中で気づいたけど止めるに止められなくてここまできた」
「あはは」
アキラが苦笑している。
「だけどここまできたら引力はいいだろ。次は斥力だな」
「はあ……」
思い出させないで欲しかった。そう、オレはまだ引力しか使えてないのだ。まだ斥力が待っている。しかも斥力を使えるようになって初めてテレキネシスのスタートラインに立ったことになるのだ。
テレキネシスを使いこなせるようになるのはいつになるやら。
相も変わらずアキラは言うだけ言って街に帰って行ってしまった。
それはいいから斥力だ。
つまり今度やることは引力と逆になる。まず石を持って砂に近づける。そして磁石のS極とS極、N極とN極のように反発させればいいのだ。
石を持って地面に近づけてみる。すると、サァッと砂が石を嫌がるように円形に避けて動いた。
おお、なんだか引力の時よりスムーズに斥力が使えた気がする。地道に引力の練習を続けてきた効果かもしれないな。それかオレは引力より斥力の方が才能があるかだ。
どっちでもいいか。斥力は引力より早くモノにできそうだ。
ドスッという音と共に岩に石がめり込む。その痕はまるで弾丸で穴を穿ったようだ。
「スゲエ……」
さすがのアキラも絶句している。
一週間掛かった。斥力の反発力を利用して石を飛ばし岩を穿つ。単純だが大変だった。
石を飛ばすまではすぐだったのだが、そこからが大変なところだ。やはり自分から離れるほど威力が弱まっていくのだ。
オレから岩まで約10メートル。飛ばすのに三日、穴を穿つほどの威力を出すのに四日掛かった。
だがオレはやり遂げた。ついに引力と斥力、両方を手にいれたのだ。なんだろうこの達成感。
考えてみればオレはこの16年、何かをやり遂げたことがなかったかもしれない。全てのことに投げ遣りで、途中でできないと決めつけて逃げ出すような人生だった気がする。
だがオレは今日、引斥力を手に入れるという大願を果たしたのだ。
「ようやくテレキネシスのスタートラインだな」
思い出させないで欲しかった。
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