メリークリスマス/ハッピーバースデー 06-1

〈 12月25日 〉



 クリスマス。

 イエス・キリストの降誕祭であるわけだが、恋人を持たない一人暮らしの社会人からすると、これといってなんてことはない日である。

 平日なら、ただ普通に仕事をする日でしかないからだ。

 事実昨年は平日だったため、千夜せんやはごく普通に仕事をして、コンビニエンスストアでケーキとチキンを買って帰ったくらいの思い出しかない。


 けれど今年は休日だった。

 12月25日、土曜日。24日は仕事だったが、今日はお休み。

 だからというわけではないが、彼は今日外出をしていた。

 もともとは特に予定もなく、休日だからといって特に例年と変わらない日を過ごすつもりだったのだが。



 ──プレゼントだけ当日渡したいので、ちょっとだけお時間いただいてもいいですか? 



 千夜は、真魚の言葉を思い出していた。

 つい先日、空いている時間を尋ねられたので、『17時以降ならいつでも』と返信した。『では17時ごろ伺います』と言われたので、17時には自宅にいなければならない。

 さて、プレゼントを渡すと言われているのだから、こちらも渡さねば無作法というものだろう。

 これを考えたとき、色々と思うところがある。



 Q. いまどきの女の子が喜ぶものってなんですか?

 A. さぁ……?



 どうせ渡すなら喜んでもらいたいし、と思いつつ、なんだかんだ先週は忙しくて当日になるまで何も用意することができていない現状だった。

 そんなわけで、クリスマス当日、千夜は近場のショッピングモールに訪れていた。

 モールというだけあって大きく、専門店も色々と入っている。一日ぶらつきつつ色々見ていれば、なにかは見つかるんじゃないかなぁ……という楽観思考である。


 時刻は13:00。

 家に帰るまでざっくり1時間として、16時までの3時間でプレゼントを選定する必要がある。

 楽勝では? と思いつつ、それでもやっぱり色々悩んでいると3時間くらいはあっという間である気がする。


 事実として彼がモールを訪れたのは11時ごろで、軽食をはさんだのを考慮してもすでに1時間は見て回っている。

 しかし現状まったく候補には巡り合えていない。


 最終的には無難な消え物にはなるだろうが……と、思いつつ、彼は通路を歩く。

 すると、先方に、見知った顔を見かけた。


 ぽかん、と開いた口。桜色の唇。夜色の髪。あどけない表情。

 白いダッフルコートに青いセーター、黒のスカート。

 夜と海の映える少女、桶内真魚おけうちまおがそこにいた。


 思わず足を止めてしまって、向こうも足を止めて、ばったりと視線が合う。

 予想の外だったというのと、プレゼントを贈る相手との出逢いというのもあり、思考が混乱。

 お互いに、つい停まってしまった。



「あら、お知り合いですの?」



 そんな沈黙を破ったのは、真魚の隣にいた女の子だった。

 明るく染まったミルクティーブラウンの髪を、サイドテールにまとめた女の子。

 真魚と千夜を交互にしげしげと眺め、ははーん、とニヤニヤしていた。


「もしかしなくても、真魚ちゃんの──」

「わーっ、わーっ!」

「むぐ。まだ何も言ってませんわ」

「絶対ロクなこと言わないでしょ!」

「そんなことありませんのに……」


 ぎゃー、と威嚇するように真魚は友人の肩を揺らし、肩を掴まれた女の子は、ぐわんぐわんとされるがままに遊ばれていた。

 そして、ぽかん、とその様を眺めていた千夜と友人の女の子との目が合う。

 

「あら、すいません。わたくしとしたことが申し遅れましたわね。佐々木礼ささきれいと申します。以後お見知りおきを」

「あぁ、ご丁寧にどうも。えーと、小池千夜こいけせんやです。どうぞよろしく」


 すごい口調をしている割に、名前はすごく普通だな……と千夜は思っていた。

 礼はにっこりと笑みを浮かべ、ずずい、と千夜との距離を詰める。それを見て真魚は、ぎょぎょ、と動揺していた。


「真魚ちゃんから色々話は伺っております」

「えっ。そ、そうですか。……不躾ながら、何を聴いてるんです?」

「あら、わたくしのような小娘に敬語なんて不要ですわ。聞いた内容は……そうですわね。……悪い内容ではないとだけ」


 礼は笑みを浮かべながらウインクをする。

 千夜も真魚も、そんな礼に動揺を隠せてはいなかった。

 真魚は、あわわ、と慌てふためいている。


「べ、別に悪いことはなにも言ってませんからねっ。最近お世話になってる方がいるとかそういうのですっ」

「えぇ……? いやそれはそれでどうなんだ……?」


 いったい何を聞いているのか、と千夜は身構える。

 27歳の男性と17歳の少女というだけでも、なにかと邪推をしたくなる要素しかない。

 なにを聞いてもよろしくない方向の認識にしかならなそうだが……良いところだけを言えば、好意的になるのは当たり前なのかもしれなかった。


「ところで、小池さんもお買い物ですの?」

「そうだね」

「もしよろしければですが、ご一緒しませんこと? そのほうが楽しそうですわ」

「え?」

「礼ちゃん?!」


 礼は飄々としており、千夜と真魚は唖然としていた。


「両手に花ですわよ。いまならセット価格でお買い得です」

「いや売り物じゃないんだから」

「まぁいいではありませんか。それともなんです? 嫌とおっしゃいます?」

「ものすごく解答しづらいことを聞くね。まぁ、嫌ではないです」

「では、示談は成立ということですわね」

「……」


 いいの? と千夜は真魚に視線を送る。

 真魚は、ゆるゆると小さく首を振って、『よくない』という熱を込めて礼を見つめた。


「では行きますわよ~」


 想いは通じなかったらしい。

 真魚と千夜は顔を見合わせ、先行する礼の後ろを着いていくのだった。

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