映画鑑賞、お供にココア 05-3
「……でもあれですね。話変わりますけど、誕生日お祝いできなかったの、ちょっと残念です。ケーキとか食べました?」
「……あー」
「?」
「ケーキは、食べてないかな……」
「あ、そうなんですね。甘いの好きって言ってたから、食べてるかなって思ってました」
「んー……」
「……?」
バツの悪そうな顔で、彼はうなる。
少女は、何か変なこと聞いたかな、と首を傾げる。
「とりあえず、『嘘をついたつもりはなかった』という前置きをしつつ、話をしてもいい?」
「はぁ……。どうぞ」
「誕生日、12月5日じゃないんだよね」
「あれ?」
「いや確かに5日だと思われる感じのこと言ったんだけど、あのときは『5がつくのお揃いだな』くらいのニュアンスで言ってて、誕生日祝ってもらった手前、否定するのもなぁと思ってたりして……」
「へー……。5がつくのはお揃いで……12月なのはほんとなんですよね? てなると、15か25ですか?」
「25のほう」
「クリスマスじゃないですか」
「Yes」
「キリスト」
「の聖誕祭」
「クリスマスが誕生日って、そりゃそういう人がいるのは当たり前なんですけど、なんだか不思議な感じですね」
「うむ……。クリスマスプレゼントと誕生日プレゼントがまとめられることに定評がある素敵な生まれだよ」
「あぁ……やっぱりそういうものなんですね……」
「別に今となっては、さして気にしてもないけど」
「そういうものですか」
「そういうものです」
少女は話しつつ、スマートフォンでカレンダーを見ていた。
今日が、12月11日。25日まで、14日。ちょうど丸々二週間。
二週先ということはつまり、土曜日ということで、普通に考えれば休日ということだった。
「……ちょっと考えたんですけど」
「うん」
「小池さんって彼女とかいるんですか?」
「どっちだと思う? ぼくはいないと思ってる」
「小池さんがいないと思ってるのにいたら、もうそれはホラーなんですよね」
「怖いね」
「いないんですよね?」
「いないね」
年頃の少女を平然と家にあげたり、合鍵を渡している時点で、恋人の類はいないことは窺えていた。
けれど、本人の口からハッキリと聞いたのはこれが初めてで、少女は納得をしつつ、『それならば』と考えていた。
「友達と会ったりとか、そういうのはどうなんです?」
「いや特に……? ご飯誘われたりする可能性もなくはないだろうけど……ここ数年そんなのなかったし、今年もない気がする。クリスマスっていうか忘年会はどっかであるかもだけど、まぁクリスマスにそれねじ込まれることはないだろうし……」
「もしかして、クリスマスに暇あったりします?」
「あったりしますね」
「……」
真魚は、考える。考えていた。考えた。
やりたいこと、望む形は脳裏に描かれていて。だけど実現するためには、他人の時間をもらう必要があって──と、そんなことを考えていた。
だけど。
そういう話をするなら、もう前々から、彼の時間をもらっている。
心理的抵抗を理由にするなら、合鍵をもらったときに、返すなりなんなりをしておけばよくって。
でもそれをしなかったのは。今もあまり、そういう選択を取る気にはなれないのは。
「……えっとじゃあ……プレゼントだけ当日渡したいので、ちょっとだけお時間いただいてもいいですか?」
「いいけど」
「ではそういうことで」
そして、また一つ約束をした。
約束。次につながる言葉の形。
今晩は、一緒に映画を見る。クリスマスには、プレゼントを渡す。
そういう‟次”があるから、期待をする。安心する。あぁ、私はここにいてもいいんだ、と思える。
「そろそろ、おゆはんの支度はじめますね」
「おっけー。何を──」
「何もしなくていいので、座って待っててくださいね」
「はい」
少女は、心底嬉しそうに、笑みを浮かべた。
月の光のような、自分だけでは照らせない、優しい明かり。
誰かがいるから輝ける、そんな笑みを伴って、少女はキッチンへ。
「~~♪」
そんなこんなで、彼らは同じ時間を共に過ごした。
真魚の作るオムライスが案の定ふわとろ仕上がりにならなかったり。それはそれで楽しかったり。次どうする、なんて話をしたりして。
最後には人通りの多いところまで送る、という名目で夜の散歩に興じたり。
別れた後も、各々の家で一人になって、けれどインターネット上で繋がって、一緒に映画を見たり。
そして感想を言い合ったり。
今日何をしていたか、ということを言い表そうとするだけで、原稿用紙が複数枚必要になるような、そんな時間。
冬の冷たい空気の中では、他人の温度がより鮮明で。
彼らは、そうして、同じ時間を過ごしていた。
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