第19話 ロゼラム

◇◇◇


 そこは、小さな傭兵事務所であった。

 こじんまりとした部屋で、応接用のテーブルと、木製の椅子が真ん中に並べられているだけで、事務所の机が存在しない。

 奥の方は、様々な本と書類が詰め込まれた本棚があり、手前の方は、何が入っているのか分からないタンスが置かれていた。

 窓からは日光は差し込んでおらず、テーブルの上に置かれたランプが部屋を照らしていた。

 椅子の一つに、赤髪の女性が座っており、扉をじっと見つめている。


「次の仕事の日程が決まったぞ」


 扉が開くと、屈強な大男が事務所へと入ってくる。

 頭はスキンヘッドで、年齢は三十前後に見える。


「ラングさん、お帰りなさいです! また帝国の傭兵と戦うんですか?」

「まあそうだな……ミュールはどこだ?」

「夕方出かけたきり帰ってきてないですよ、宿に戻ってしまったんでしょうか……」

「それは困るな、この時間には集まるように言ってあるのに」


 再び事務所の扉が開き、今度は褐色肌で長い黒髪の女性が入ってくる。

 どことなく妖麗な雰囲気が感じられる。


「あら、ごめんなさい。お客さんとの話が弾んじゃって、フフフ」

「あ、ミュールさん! 良かったぁ、お酒に酔ってどこかに倒れてるのかと思いましたよ!」

「もう、失礼ねっ」


 大男がこれ見よがしに咳払いをする。


「オホン……あー次の仕事だが、まあお察しの通り、また帝国との小競り合いだ。今回の相手は、恐らくフラグメントってところだろう」


 大男ラングと、褐色の女性ミュールは、それぞれ椅子に座る。


「そこって強いんですか?」

「結成されてから日は浅いが、確実に実績を積んできているところだ。主戦力は二人の獣人の女で、そのうち片方は魔法を使うらしい」

「あら、獣人族が魔法? 聞いた事ないわね」

「そんでそいつらを従えてる男がいるんだが、こいつは恐らく非戦闘員だ。その男が戦った記録がないからな」

「ふーん、男のくせに頼りないわね」

「えっとつまり、獣人二人は奴隷なんですかね、コレ」

「多分そうだろうな、まあ油断せずに行こう。獣人の戦士は俊敏な者が多い」

「大丈夫です! 私達ならいつも通りやれば勝てますよ!」


 赤髪の女性、ノーラは自信に満ちた顔で拳を突き上げる。


「フフッ、ノーラちゃんの言う通りかもね」

「……さて、出発は明日の朝、場所はマレフィムの丘西部の沿岸部。二人共、特にミュールは酒とか飲むなよ」

「もちろんです!」

「分かってるわよ」



 そして次の日、天気は晴れ、心地よいそよ風が吹き、草原の草花が揺れ動く。

 ラング、ミュール、ノーラの三人は、マレフィムの遺跡がある場所から外れ、沿岸部に足を踏み入れていた。

 右側には海が見える。


「のどかな場所ですねぇ、何か目印みたいのってあるんですか?」

「お互い、海が見える場所という認識はあるだろうから、この辺を真っ直ぐ歩いていれば会えるだろう」


 ラングとノーラが会話を交わす。

 ノーラは軽装で、ショートソードを携えており、不思議な刻印がされた黒い手袋をつけている。

 ラングはフルプレートアーマーを身につけており、兜などは装備しておらず、武器として大きな剣と盾を背負っている。

 ミュールは、肩がはだけた紫のローブと、同じ色もウィッチハットを身につけており、右手には先端に青い宝石の嵌った金色のワンドを持っている。


「あっ、向こうに誰かいますよ!」


 ノーラが指を指した方には、三つの人影が見える。


「あら、今回のお相手かしら」

「ふむ……二人は獣人の女、一人は人間の男か、事前情報とも一致しているな」


 ラングは目を凝らし、相手の特徴を把握する。

 向こうの三人組もこちらに気づいた様子を見せ、ゆっくりと近づいてくる。

 そして、お互いの声が届く距離まで近づき、立ち止まる。


「初めまして、我々はアルベ王国所属の傭兵団、ロゼラムである。そちらは帝国所属の傭兵団、フラグメントで間違いないかな?」


 ラングの問いに対して、黒髪の男が答える。


「はい、間違いありませんよ。俺はアルベル、そんで白い方がシトリーで、灰色の方がイーリスだ」


 白髪の狐獣人シトリーと、灰色髪のイーリスは、警戒を緩めずにラング達を見つめている。


「自己紹介どうも、俺はラングという」

「私はミュールよ、今日はよろしくね」

「はいはーい、私はノーラです! 本日はよろしくお願いします!」


 三人も自己紹介をし、ノーラは丁寧にお辞儀までしていた。


「さて……そちら、準備は良いですかな?」


 ラングはそう言いながら、背中にある剣と盾を手に持つ。

 ノーラも剣を抜き、ミュールの持つ杖の石は淡く光り出した。

 それを見て、イーリスも抜剣し、真っ直ぐに構える。

 両者共、相手が出す殺気を感じ取り、緊張が高まっていくのを感じる。

 アルベルはその緊張感の中、軽薄な笑みを浮かべながら、その言葉に答える。


「ああ、問題ないよ。じゃあ、始めようか」

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