ラグナロク編

第32話 護衛指定対象 春海 蓮

静まり返った放課後の帰り道。

通学路を春海蓮はいつものように俯き歩いていた。


(……今日は、追ってきてない……よな?)


後ろを何度も振り返り、足を速める。


この数日、妙な視線を感じていた。

それは、学校でも柄の悪さで知られる女子たちからだった。


(たぶん……護衛官がついてないからだ。)


男子には通常「女性護衛官」がつく。

危険から男を守るのは女の役目。

それが社会常識だ。

家庭の経済力によっては、

その保護を十分に受けられない男子もいる。


蓮は、まさにその「すき間」にいる少年だった。


(はぁ、、。)


通学路を、距離を保ちながらついてくる足音。

手を出されるわけではないが気味だ。


「――よう、蓮くん。」


曲がり角に差しかかった瞬間、声が降ってきた。


蓮の足が止まる。

前方の路地に、制服を着崩した女子が三人、立ち塞がっていた。


(……来た。)


すれ違おうとする。


「ちょっと待ってよ。冷たくない? うちらに。」


「……別に。忙しいだけだよ。」


笑みを作るが、引きつっていた。

一人が蓮の袖を掴む。


「じゃ、ちょっと付き合ってよ。暇つぶしにね?」


(逃げなきゃ。)


そう蓮が考えた瞬間。


「……放してくれる?」


凛とした声が響いた。


振り返ると、

短く切り揃えた黒髪の女性が立っていた。


片手には身分証。


「白石エリカ。国家認可の護衛官です。

彼は私の保護下にあります。」


女子たちの顔が引きつる。


「なに、おばさん!」


「護衛官が何でいるの?」


吐き捨て、後して去っていった。


その場に膝をつきそうになる蓮をエリカが支える。


「……立てる?」


「ありがとうございます……。」


「礼はいらない。仕事をしただけ。」



エリカは心の中で思う。

(この子は……常駐護衛官が必要だ。)


「しばらく様子を見させてもらってもいいかな?」


蓮は小さくうなずいた。


(彼は、私を信頼してくれた……。守らなきゃ。)


エリカは本部に任務を発注し、自ら無償で蓮の護衛に就いた。




◇ 数日後 ◇


放課後

今日は、エリカが別任務で来られない日。


靴を履き替え蓮は何度も自分に言い聞かせた。


(大丈夫……きっと、何もない……。)


夕暮れの通学路に足を踏み入れる。


角を曲がった瞬間――電柱の陰に立つ数人の女子の姿が目に入った。


その視線が、突き刺さる。


(……まずい。)


蓮は反射的に駆け出す。

伸びた手が体を路地へと押し戻した。


「逃げんなよ、蓮くん。」


包囲される。


(……助けて……エリカさん……。)

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