第187話:進む村の変化

 ルグナ所長から話を聞いた翌日、ドレン課長からピーメイ村の大規模拡張について、本格的な説明を受けた。

 今の村の敷地の外を更に広げて住宅と畑を確保。更に簡単なものだけど小屋も作るそうだ。こちらはダンジョン産の薬草を加工したり、採取品の倉庫にする予定。

 驚いたのがいつの間にかこの話にベル商会が絡んでいたことだ。どこかで聞きつけたのか、薬草工場などの建設に関わることになっていた。現時点で、村に大きな建設計画を立てても、対応できるのがベル商会だけという実情が強かったらしい。


 さて、問題は用地の確保だ。村の周辺はここ二年で魔物が殆どでなくなった。安全面では問題ないと思う。とはい、心配なので防壁などは欲しいとのこと。畑の方はその外に作る予定だ。

 そんな時、声をかけられるのが俺とイーファである。


「とりあえず、この辺りを固めていけばいいみたいだな」

「結構広いですね。元の村の何倍もあります」

「一気に百人くらいまで人口が増えるって話だったけど……」

「ひゃくにん! そんなに養えるんでしょうか?」

「ダンジョンの稼いだ売上で食糧なんかを買えばいける想定らしいよ。俺も細かいことはわからないけど」


 偉い人たちも細かく計算していない気がする。なんか儲かりそうだから投資した、みたいな話は冒険者時代もよく聞いた。


「とにかく、俺達は仕事をしよう。俺は家の建設予定地を精霊魔法で固めていくよ」

「はい! 私は周辺の木を斬りまくります!」


 今日のイーファはあのハルバードを手にやってきている。ピーメイ村の外にはかなりの樹木が生えている。それをイーファの力で一気に伐採して貰うという計画だ。


「じゃあ、怪我に気をつけて」

「はい。ご安全に!」


 こうしてギルドの仕事に余裕がある時は、移住用地の準備という仕事が増えてしまった。なかなかのんびりできないものだ。冒険者ギルドも人員増強しないとまずい気がしてきた。


「大地の精霊よ。この辺りを平らにして固めてくれ」


 地面に手を触れて、精霊に語りかける。すると即座に答えとばかりに、地面が隆起して硬い区画が完成する。ラーズさんに授けられた精霊魔法。ピーメイ村に来る前はなかった力だけど、それなりに使い慣れてきたと思う。明らかに、以前の魔物討伐時の工事よりも早く正確になっている。

 これもきっと『発見者』のおかげなんだろうな。

 なにかを見つける神痕と、どこにでもいるけど見えない精霊に語りかける魔法の相性は思ったよりも良い。最近、ようやくそんな実感が出てきた。


「そろそろ昼か」


 精霊魔法は上手くなったけど、今回は大仕事だ。予定全体の一割くらいで半日使ってしまった。いや、これは多分おかしいな。つまり本気になれば五日で百人規模の集落の土台を俺は作れるようになったわけだ。多分、普通に職人を投入したら莫大な金額がかかるはずだ。人件費としてかなりの節約になっていることだろう。


 節約といえば、イーファの方も凄い。俺が作業をしていると遠く方から絶え間なくメキメキという音が聞こえてきた。言うまでもなく、イーファが切り払った樹木が倒れる音だ。遠くに見える景色がどんどん見晴らしよくなっていくのは、凄いの一言しかでない。


「先輩! お昼にしましょう!」


 森の方を見ていたら、ハルバードを担いだイーファが走ってきた。まるで疲れた様子がない。

 通常の何倍も早く作業をしてるんだから、慌てることもない。

 とりあえず俺達は昼食をとるべく、ピーメイ村に戻ることにした。



 村の方も冬の間に変化がある。寒さはそれなりだけど、雪が少ない環境のおかげで建築作業が進んでいる。

 今できているのは、薬草加工用の小屋だ。柱を立てて板を打ち付けた簡素なもので、もうかなり出来つつある。

 ベル商会のコールさんが言うには、ちゃんとしたものは利益が出たら建てるつもりらしい。


「不思議ですねぇ。あんな静かで誰もいなかったピーメイ村から色んな音がします」

「そうだな。俺が来た時なんか、外に人いなかったもんな」


 昼は役場の二階にある食堂で食べることになっている。道を歩きながら、何人かの人を見かけるのは、なかなか感慨深い。


「ああ、サズ支部長。ここで会えるとはちょうどよい」


 村の様子を眺めていたら、声をかけてくる人がいた。ベル商会のコールさんだ。


「こんにちは。なにかあったんですか?」

「ええ、実は例の虫よけの試験結果が戻ってきまして。……良好だったそうです」

「やったじゃないですか! え、でも早すぎませんか?」


 喜びつつもイーファが戸惑っている。たしかに早すぎる。少し前の話ではあるけど、南方に到着するまで結構時間がかかるはずだけど。


「ベルお嬢様が本家の力を借りましてね。特急便があるんですよ。昼夜問わず、馬車が走るような。それで、試験をして結果だけ鳩なりを使って連絡をしてもらったわけです」

「そ、それは凄いことをしましたね」


 たしかにそれなら普通よりも相当早く話が進むだろう。でも、物凄く手間がかかっているな。


「凄いお金がかかっていそうなんですけど。大丈夫なんですか?」


 同じ気持ちだったらしいイーファが聞くと、コールさんが物凄い笑顔で頷いた。


「お嬢様も私も、これは大きな商いになると思っていますから。ちょっとした投資ですよ、この程度は。これからいそがしくなりますよ。薬の製造施設と設備の発注もしなければなりません」

「じゃあ、俺達は薬草類の安定供給をしないといけませんね」

「宜しくお願いします。……ところで、お二人共、基礎作りや森の伐採が凄まじい様子ですね。素晴らしい能力です。もし待遇面で不満があれば、是非ベル商会にいらっしゃってください」


 さりげなく俺達を勧誘すると、コールさんは笑顔のまま去っていった。


「あの、今のって、引き抜きですか?」

「半分は冗談だと思うよ。今のところ、俺達が支部を運営してる方がいいはずだから」


 とはいえ、段々目が本気になって来てるんだよな。商人というのは本当に怖いものだ。


 そんなことを考えつつ、昼食のため、イーファと役場に向かい直した。


 

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