第186話:地域の要望

 これといったことをしたわけじゃない休日だったけど、想像以上に調子が良くなった。

 自分の想像よりも疲れていたんだろう。これは休ませてくれたルフィナさん達に感謝しなきゃいけない。


 ピーメイ村に帰った俺は、皆にお土産を配ったりしつつ、いつも通りの業務に戻った。

 休み中に溜まった支部長用の決裁書類に目を通したり、普段通りの仕事をこなしているうちに、すぐに数日が経過した。


「メリス達のパーティーは大丈夫かな? また潜り始めたんだろう?」


 事務所内で報告書を聞きながら、イーファに聞く。今日は彼女も本業のギルド職員の仕事をしている。

 神痕持ちが増えつつあることもあり、少し事務仕事の割合を増やす予定だ。


「今日はリナリーさんが引率して第三階層にいっています。昨日は私も同行したんですが、安定してましたよ。神痕なくっても戦い慣れてる感じです」

「なるほどな。腕はそれなりなのか」

「リナリーさんが剣の稽古してあげたそうでした。しばらく面倒見るんじゃないでしょうか?」

「あいつは気に入った相手には心配性で面倒見がいいんだよな……」


 元々、孤児院で皆のお姉さんみたいなことをやっていた時期があったからだろうか。今もそんな風に振る舞うことがある。前に一人、勘違いした男と事件になったこともあった。……さすがに、もういい年齢だからその辺の加減は間違わないと思いたい。


「じゃあ、しばらく様子見を続行だな。上手く神痕が発現でもしてくれればいいんだけど」

「ですね。私もそう思います! そうだ。採取の依頼なんですけど、第五階層からの輸送をもっと増やした方がいいでしょうか?」


 イーファの言っているのは第五階層における薬草や鉱物の採取量が増えていることだ。なんというか、思ったよりも沢山取れる。いいことなんだけど、山奥で頑張って開発中の温泉支部では置き場所や輸送手段に限りがあるのが問題になる。ゴウラなんか、毎日往復の仕事をしていてちょっと疲れている。


「様子見だな。第五階層に溜めておいてちょっとずつ上にあげよう。商会に直接買いに来てもらうとか考えた方が良さそうだ」

「わかりました! いざとなったら私が全部運び出します!」

「その時はお願いするよ」


 イーファの力をもってすれば、運び出しだけはすぐ終わるだろう。相変わらず規格外な『怪力』だ。


「冬の間は静かになるかと思ってたけど、案外違うもんだな」

「むしろ、やることのない冒険者が集まって来ている感じですねぇ」


 冒険者の仕事は場所によっては農家の収穫の手伝いなんかもある。そういった仕事がない時期に、軽い採取で儲かるからとやってくる人達が増えている。第一階層の休憩場所は温かいのも良いらしい。お金を払えば温泉にも入れる。

 案外、この冬で評判が良くなってもっと人が増えるかもな。


 そんなことを考えながら、俺は次の書類のチェックに入った。


 ◯◯◯


 温泉の王の宿に行ったら、ルグナ所長がいた。

 それもステファニーさんと一緒に。なぜか休憩用の部屋で談笑している。普通にお茶とお菓子――この前俺がお土産で買ってきたものだ――を食べている。

 休憩用の部屋はテーブルと椅子が沢山並んだ場所で、他の冒険者もいる。さすがに皆、ルグナ所長のことを知っているらしく、離れたテーブルに集まっていた。……そうだよな、王族なんて接したことないから警戒する。

 ちなみに護衛のマリエさんが凄い顔をして周囲を威圧しているのも関係しているだろう。気疲れしてしょうがなさそうだ。


「おお、サズ君。どうしたんだ? 休憩かな?」

「こんにちは。そんなところです。所長は何故こちらに?」

「なに、私も休息だよ。こちらのステファニーさんと話していると、不思議と心が安らぐのでね」

「ふふふ。銀月姫様にそう言って頂けるなんて、光栄ですわ」

「ははは。その呼び名はやめてくれ。若い頃につけられて、今はちょっと恥ずかしいんだ。実は」

「そうでしたの。お似合いだと思いますのに。ルグナ様、お話安くて、お話どおりの方ですわね」

「いや、久しぶりに王都の話が出来て嬉しくなってしまったまでだ。ステファニーさんが聞き上手なだけだよ」


 恐らく初対面なのに物凄く仲良くなっている。こころなしか、ルグナ所長の表情もいつもより穏やかだ。ステファニーさんの能力、本当に凄いな。


「ゆっくり休んでください。俺が言うことでないですけど」

「君もしっかり休むんだぞ。代わりのいない者ばかりなんだから。ああ、そうだ。ちょうどいい、少しばかり仕事の話をしようか」


 そう言うと目線で座れと指示された。俺は素直にステファニーさんの隣に座る。


「わたくし、席を外した方が?」

「いえ、聞かれても構わない話だから大丈夫だ。周辺の領主や貴族が少し動いてね。春までにピーメイ村の敷地を広げて、移住者を募る予定だ」

「それって、ドレン課長が考えてたのとは別口ってことですか?」


 ピーメイ村の拡張自体は今も進行してるけど、どうも出てくる人の役職がいきなり高くなった。もしかしたら、これは大事なのでは。


「ああ、同時進行だな。やってくるのは農家の次男以降など、土地を欲しがっている者たちだそうだ。身上調査だけはしっかりするよう頼んでおいた」

「これはまた、忙しくなりそうですね……」


 ドレン課長やルーカス、大丈夫だろうか。村役場も人が増えたけど、いきなり大人数を受け入れるなんて。


「ああ、とはいえこれは決定だ。ダンジョンからの売上を見ても、ピーメイ村の規模が弱点になっているからな。なので、困ったことがあればすぐ相談してくれ。責任は私にある」


 そう力強く宣言するルグナ所長は、王族らしい貫禄に溢れていた。もし、この人が権力争いを嫌がらず、本気で王都で動いたら、女王にでもなれたんじゃないかと思う。


「わかりました。なにかあったらすぐ相談します」

「うん。時間をとって済まなかったな。マリエ、そろそろ温泉に行こうか」

「承知しました」


 気軽な様子でマリエさんに声をかけると、ルグナ所長は温泉の方へと消えていった。


「サズさん。お疲れでしたら、わたくしにも声をかけてくださいね」

「ええ、お願いするかもしれません」


 軽く呆然としながら、ステファニーさんにそう返事をするので精一杯だった。

 俺のような人間だと、実際に作業が始まるまで規模感が掴めない。

 

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