都市レポ 

恥目司

東京

 東の海に昇る太陽を拝むならば砂に蹲って祈りを捧げろ。

 

【東京都】


 6月


 午前6時

 新宿、歌舞伎町。

 


 朝ぼらけの歓楽街のアスファルトでよく見かけるのは死体のように路上に眠る人が多い。

 その次には、空きペットボトル。

 で、その次にはゲロと何かのシミ。


 注射器やグミのゴミが見えたら、大体その先で人が死んでいる。

 1人とかではなく複数人は必ずいる。


 それでも、この都市は朝を待つ。

 肉が腐り、骨が朽ち、息絶えた後も悍ましい。


 それは人と形容出来るものなのかと疑う程の死体。言うなればゾンビだ。


 ネオンで彩られた星空はまるで骸のような光。


 確かに生きている人間もいる。

 ただし、虚ろな目をした廃人が夜の新宿を彷徨するかのように歩いているだけ。


 散らばったガラスは身体に刺さっている。

 活気がなく、全身という全身に掻き毟ったかのような痕。

 血が引いて真っ白になった腕の中に抱えられた一輪の花。



 数多く日本に密輸されてきた大麻加工品の中で、さまざまな薬物を合成して作られた脱法ハーブグミが流行った。


 一度摂取すれば強烈な高揚感と共に五感覚の激化、そして誰もが飲み込まれるまるで亜空間の様な幻覚が得られるという代物で、ひとたび東京に持ち込まれると爆発的に広がった。

 

 主成分は何故か市販の睡眠薬と同じというのもあって、規制はされずにいた。


 おかげで東京の、特に新宿周辺ではB級ゾンビ映画さながらの陳腐な地獄絵図が完成されていた。


 幻覚により暴れ出す者もいれば、ただ虚空に向かって狂った笑みを浮かべる者もいる。

 車の上で踊りながら焼身自殺する者もいれば、自爆テロを起こした者もいる。

 

 朝になれば死体は転がっているし、昼に処理されたかと思えば、夜にはまた死体が転がっている。


 腐った肉と血と吐瀉物と溶け残った砂糖の匂いが、アスファルトに染みていた。


 群がる建物に囲まれた青空が、くすんでいるように見えた。


 

 

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都市レポ  恥目司 @hajimetsukasa

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