第42話 皆には内緒

次の日、俺はいつも通りの朝を迎えた。

昨日、あれだけのことがあったのだが特に問題なく学校に行けそうだ。

心配なのは咲良ちゃんの方か。

心に負った傷は、結構でかそうだったが大丈夫だろうか。


俺はそんなことを考えながら朝食を食べ、ツブッターのニュースを見ていた。

すると、昨日の事件の事が載っており、そこに所属している西城咲良はアイドル活動を休止と書かれていた。

もちろん事件は未然に防いだため、彼女は無事保護されたと書かれていた。

あれはほんと危なかった。

あの時、鞄を教室に置いていなかったら、先生からその話を聞くことはなく事件は起きてしまっていただろう。


するとこの件はテレビでも取り扱う方針になったみたいで、今テレビで丁度このニュースが流れ始めた。

どうやら、この事件は結構大事になったみたいで、各アイドル事務所の立ち入り検査が実施されるようだ。

たとえ事務所の存続が危なくなっても、今まで一緒に働いてきたアイドルを裏切るようなことしちゃ駄目だよね!

事務所の経営がうまくいっているのは全て自分のおかげと思って勘違いしている人が、そのようなことをしてしまうのだろう。

今後はこのような事件は起きないでいてほしいが、難しい問題なのだろう。


すると由愛が話しかけてきた。


「うわー。このアイドルってお兄ちゃんの高校の人だよね」


「そうだなー」


「そんな身近なアイドルが、まさかこんなことになるなんてね」


「こんな事件は、もうどこで起きてもおかしくないのかもな」


「このニュースをきっかけにこんな事件無くなっちゃえ!」


やはり由愛は俺の妹だな。

まったく同じことを考えていた。


「それにしても残念だろうね」


「何が?」


「遊園地の廃園ライブだよ!」


「あ~。それなりに大きいライブみたいだしな」


「そうそう!絶対楽しみにしてたはずだよ!お兄ちゃんの力で何とかできないの?」


俺は最近流行りの言葉を使うことにした。


「検討します!」


すると由愛はその言葉が面白かったのか、笑い始めた。

だが俺は本当にこの件は考えている最中だった。

さぁ、どうしようかな。

俺は、考えながら朝食を食べるのであった。




登校していると、目の前に生気が抜けた須藤がフラフラと登校していた。

俺は後ろから背中を叩いて、あいさつした。


「よお!須藤!!どうした?」


すると須藤は膝から崩れ落ち、地面に手をついた。


「おい!マジでどうした?」


俺は、しゃがみ須藤の背中に手を当てて聞いてみた。


「また・・・エロビデオに堕ちた!」


「えっ?」


「また俺が推してたアイドルがエロビデオ堕ちしたんだよ!!」


須藤はそう言うと、地面を手で叩く。

えっと・・・。


「誰のこと言ってるんだ?」


また咲良ちゃん以外に、推しのアイドルを作っていたのだろうか。

そう思っていると須藤は涙を流しながら俺に訴えてきた。


「咲良たんだよ、咲良たん!この前言ったばっかじゃん・・・忘れるなよ」


須藤は何を言ってるんだろうか。

その件は、未遂で終わったはずだし、ニュースでもそう報じられていたはずだ。


「何言ってるんだ?ちゃんとニュース見たか?」


俺は須藤に問いかける。


「見たさ・・・俺の咲良たんが事務所の社長にエロいことされて、その時のビデオが出るんだろ」


どこの情報だよそれ!


「違うぞ須藤!」


「えっ?」


「その事件は未遂で終わったんだよ!」


「まじか!」


須藤の表情は晴れた。

こいつ単純だな・・・


「ファンクラブのサイトでそんな情報が出回ってたんだが、その話ほんとなんだな?」


おそらく、アンチによっていいように情報が改変されたのだろう。

まぁ、これほどの事件までとなればテレビ等の情報機関により正しい情報が発信されるので、騙されるのは馬鹿な須藤ぐらいだろう。

俺はスマホでそのニュースを探し、それを須藤に見せる。


「ほら!本当だろ?」


須藤はそのニュースを食い入るように見て、ホット息を吐き捨てる。


「まぁ、俺の咲良たんに限って、そんな事はないと思ってたけどな!」


須藤は先程と違い、強気に語りかけてくる。


「でもその話だと、今事務所には所属していないってことだよな・・・」


俺はそんな須藤の話を聞きながら歩いていると、もう校門にさしかかろうというところまで来ていた。

その校門の先から、生徒たちの騒ぎ声が聞こえてきて、須藤の声はかき消される。

須藤は何だ?と、その騒ぎの発生源を探る。

そして、次の瞬間須藤の顔はトロンとしてそこから目が離せなくなった。

俺もそちらの方を見ると、その歓声の中には咲良ちゃんがいた。


「西城さん、ニュース見たよ!大丈夫だった?」


「何もされてない?事務所の社長ほんと最低だよね!」


「これからも応援するから、アイドル続けてね」


俺は咲良ちゃんに新事務所に移籍したことは明かさず、しばらくは普通に学園生活を送るように指示していた。

皆はそれを知らないので、今回の事件で彼女はこのまま辞めてしまうのではと思ったのだろう。

みんなそれぞれ咲良ちゃんを元気づけ、アイドルを続けるように説得しているようだ。


「やっぱり、咲良たんアイドル辞めるのかな・・・」


須藤はその光景を見て肩を落とした。

何言ってるんだ須藤は?

咲良ちゃんは、俺に気付いたようでこっちに視線を送る。

そして・・・。

満面の笑みで俺に手を振っている。


「須藤、違うぞ!アイドル西城咲良はこれからだ!」


西城咲良に宿るアイドルの炎は消えておらず、むしろ以前より燃えているのだから。

その光景を見た須藤は、なんで咲良たんはお前に手を振ってるんだ!と問い詰めてくるのだった。

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