第17話 さぁ、帰ろう!

しばらく待っているとサイレンの音が聞こえてきた。

男5人組は、まだ意識を失っている。

アテナは結構強めな衝撃波を放ったみたいだ。

沢良木課長は、下を向いて何やらぶつぶつ言っている。

戦意は損失しているみたいだ。


「さぁ、外に出るか!」


俺は落ち着いた里奈を連れ外に出ることにする。

すると沢良木課長は、顔を上げた。


「私は、エリートの道を歩んできていたはずです。なのになぜ!!」


そう言い、地面を殴りつけた。

殴りつけた拳が痛いのか、顔をゆがませている。


「それはきっと、ツブッターの成長の早さ、世界に与える影響力の大きさが、まるで自分のものであるかのように錯覚してしまったんだろうね」


そしてなにより。


「人間って目の前に欲しいものがあったら、ついつい手を出してしまうんだよね。人間は欲深い生き物だから」


沢良木課長は、その言葉が痛いほどわかるのか、目をぐっと閉じ下を向いて動かなくなった。

価値があるものを人間が管理すると、どうしても手に入れたくなる衝動に襲われる。

それは人間である以上避けれないだろう。

それをどのようにしていくか。

今後のツブッターを左右させる問題だろう。


外に出ると、ちょうどパトカーがやってきた。


「あ!アテナ!ヘリはもう片付けておいて」


≪了解しました!≫


それを合図にヘリは無人で、離陸をはじめ、ツブッターが所有している空港へと飛び立っていった。


「ちょっと!和樹!!ヘリが一人で飛んでる!!」


里奈は、幽霊が操縦したと思ったのか、怖がりながら俺の腕をぐいぐい強めに引っ張ってくる。


「ちょ!大丈夫だから里奈!落ち着いて!!」


俺は里奈の頭をなでる。

するとすぐおとなしくなった。

里奈は頭をなでるとおとなしくなる習性でもあるのだろうか。

里奈の方を見ると、顔を赤くしニコニコしていた。

俺は続けてアテナに指示を出す。


「代わりに車用意してくれる?」


≪了解でっす!マスター!!≫


あぁ、そうだ。


「車は目立たないように、ファミリーカーにしてもらっていい?」


≪なるほどー。それならSUVタイプにします!≫


確かに最近、道路で走っている車を見たら、SUVが多い印象がある。

SUVブームも来ているというし、いい判断だろう。


「さすが、いい判断だ」


すると、アテナは頬が赤くなった。


≪警察も来たので、私も早々に退散しますね!≫


「あぁ、ありがとう」


そういうと、全てのモニターは何事もなかったかのように、電源が切れた。

それと同時に、パトカーから降りた警察官が、こちらに近づいてきて話しかけてきた。


「お勤めご苦労様です!山田様!」


警察とツブッターは連携しており、ツブッター専用の部署がある。

専用の部署がないと困るようになったので、警察の部署をツブッターが買い取ったのである。

その部署では皆、俺がCEOであることは知っている。

今回もそうだが、警察はかなりの頻度で活躍してもらっている。


「いつもすみません。通報した通り、彼らの事お願いします!」


「分かりました。お帰りはどうしますか?パトカーでお送りしますが」


「いや、大丈夫です。足は呼んでるので!ほら、来ました!」


すると、車が1台こちらに向かってきて、俺たちの目の前で止まり、後部座席のドアが自動で開いた。

里奈はびっくりしていた。

ドアが自動で空いたのもそうだが、それ以上に。


「ねえ和樹。私たちこれで帰るの?」


「その予定だけど・・・何か気に入らなかった?」


「いや、車自体はいいんだけど・・・運転手居ないよ?」


そう思うのもしょうがない。

車の運転席をのぞき込むと、誰も乗っていないのだから。


「あぁ、そういう事か」


「どうなってるのこれ?ラジコン?」


まぁ、ある意味はラジコンか。

運転しているのが、人間か、それ以外かの違いだ。

今回は後者のそれ以外である。


「アテナが運転してるんだよ」


「えっ?アテナちゃんが?」


すると車のスピーカーからアテナの声がした。


≪はい!ベテランドライバーである私があなた達を安全に自宅に届けますよー!≫


里奈は唖然とした。


「自動運転ってこと?」


「まぁ、そうなるかな。目的地を言ったら、安全に連れて行ってくれるよ」


完全自動運転、そんなもの搭載された車なんて聞いたことない。

運転サポートなら、よく見かける。

うちの親の車も、運転サポートがついており、前の車や白線を読み込み、アクセルやブレーキそしてハンドル操作を補助してくれるそうだ。

しかしそれは運転手がハンドルを握っていつでも危険なときは回避できるように構えてないといけないとお父さんが言っていた。


そして今、目の前にある車は完全自動運転で、運転席に人が座っていない。

まだこの世にない未来の車ではないのだろうか。


「自動運転の車なんて見たことないわよ・・・」


「そうだろうね。世間には出回ってないしね」


里奈は考えるのを諦めた。


「あんたは未来人か!」


「私は宇宙人かも!」


和樹はのどを手を使いながら震わせそう言った。

里奈はそれに対してつい笑ってしまった。


「ははははっ。なにそれ!宇宙人って!」


俺はしてやったりと、どや顔である。


「おっと、さすがにそろそろ帰らないとね。妹がうるさいから」


≪それではお乗りください。安全にお送りしますよ!≫


「ほら、早く帰ろう!里奈!!」


俺はそう言い、車に乗り込む。


「もう、考えるのが馬鹿らしくなってきたわよ」


里奈はそう言いながらため息を吐き、車に乗り込んだ。

里奈が乗り込んだら、ドアは勝手にしまった。


「無駄にハイテクね」


里奈にとって、今起きていること全てが新鮮であった。


≪それではシートベルトをお付けください≫


俺と里奈がシートベルトをつけたらそれを合図に。


≪それでは、出発しま~す!≫


アテナは元気にそう言い、車が動き出す。

里奈は最初、自動運転に慣れていないからか怖がっていたが、時間が経つと慣れたのかおとなしくなった。

そして落ち着いたのか、里奈は話しかけてきた。


「和樹、ツブッターのトップだったのね」


「まあね。」


「じゃあ、あれは嘘だったってこと?」


「えっ?俺嘘なんて言ったっけ?」


「ツブッターのフォロワー数よ!776人とか絶対嘘じゃない」


俺はドキッとした。あれは・・・。


≪お答えします!ただいまのマスターのフォロワー数は776人となっております!≫


すると、里奈は笑い出した。


「ぷっ、はっはっ。ツブッターのトップなのに何そのフォロワー数!」


「うるさいな!」


よかった。

もういつもの里奈に戻っていた。

里奈は笑って出た涙を指でふき取り、スマホを取り出す。


「いいわよ!私もフォローしてあげるわよ」


そして俺のアカウントにフォロワーが1人増えた。


≪パンパカパーン!おめでとうございます。里奈様は777人目のフォロワーさんです。ラッキーナンバーです。≫


「忘れるんじゃないわよ!777番目のフォロワーが私であることを!」


「忘れるわけないじゃないか。幼馴染なんだから!」


すると里奈は俺に満足そうにニコッと笑って見せた。

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