第13話 光

静かな倉庫の中を、かわいい女の子の声が響き渡る。


≪ハッキング終了しました≫


周りを見ても、ここにいる人以外誰もいなかった。

一体誰の声なんだろう。


「なんですか今の声は?」


「分からねえが、誰かこの倉庫にいるのか?」


「隠れているなら出てきなさい!」


その瞬間、倉庫の四方の壁の大型モニターの電源が付き、そこに砂嵐が吹き荒れる。

ザ――――――っと倉庫の中に音が響き渡る。

不気味な光景だが、なぜか目が離せない。

今のこの状況を挽回できるかもしれない何かが起ころうとしているからだ。


「何なんですか一体?」


男たちはみな首を回し辺りを警戒している。


「隠れていても無駄だぞ!」


「この中にいるのは分ってるんだ!」


「すぐ見つけ出してお仕置きしてやる!」


皆、声の主を捕まえる気満々だ。

私もまた、辺りを見渡すが誰もいないように思える。

するとプツン!という音とともに画面が点く。

しかし画面は真っ白だ。


「誰か知りませんが、モニターを操作して何をするつもりですか?」


「お前はそいつを車に乗せとけや!俺たちはこの声の主を捕らえてから行くからよ!」


「わかりやした!」


そしてその男が私のもとに歩いてきた。

そして、私の手をつかんでいたツブッターの社員は、その男に私の手を掴ませた。


「丁重に頼みますよ」


男は首を縦に振り、倉庫の外の車に私を連れて行こうと引っ張り歩き出す。

その時みんなの視線は、入り口に向かう私に向けられていた。


(車に乗っちゃったら、どうすることもできなくなりそう・・・どうしよ)


その時、入り口の反対にあるモニターから声がした。


≪見つけましたよ!≫


全員そのモニターに視線を送る。

するとモニターには、髪は紫色で肩ぐらいまでの長さがあり、赤色のアホ毛が前に垂れ下がっていて、そして瞳は赤色でたれ目のかわいらしい女の子が黒いドレスを着て映っていた。


「なっ!」


「こいつ、どこに居やがる!」


「どこかで撮影してそこに流してやがるのか?」


「沢良木さんの力で何とかわからないのか?」


どうやらこの人は沢良木というらしい。


≪里奈さんをさらったのはあなただったんですね!≫


「えっ?なんで私の名前を?」

その女の子は、知らないはずの私の名前を口にした。


≪そりゃあ知ってますよ!≫


一息ついて彼女はまた話しだした。


≪あなたの事もね。ツブッター第3情報課、沢良木さわらぎ 琉斗りゅうと課長!≫


「なっ!なぜそれを!」


≪簡単ですよ!ツブッターの社員データーベースにあなたの情報があったので、それを伝えただけです≫


「なんなんですか、あなたは!」


すると、パラパラパラパラという音が聞こえてきた。

そしてその音は、こちらの方に近づいて来てるのか、大きくなってきた。


「なんですか!?この音は?」


≪あなた達に終わりを告げる音ですよ!≫


「何が言いたいんですか?あなた!」


モニターに映ってる子は、にやりと笑った。


「沢良木さん!倉庫前にヘリコプターが降りようとしてるみたいだ!!」


「なんですって、いったい誰が!?」


≪お!来たみたいですね♪≫


男たちは倉庫の入口を見ている。


「いったい何なの?」


もう私は、次から次に起きる出来事に、訳が分からなくなっていた。


≪マスター!時間は稼いでおきましたよ☆≫


マスター?この女の子の主だろうか?

というか、このモニターの女の子の正体すらわからないのに、さらに人が増えるの?

この倉庫に向かってるという人が、一体どんな人なのか気になる私は、男たちと同じように入口を見る。


そして、入り口から1人の男が入ってきた。

外の方が明るいため、姿は見えるが顔が見えない。

1歩1歩近づいてくるたび、その顔が見えるようになってきた。


「あぁ、ありがとう。おかげで間に合ったよ。」


その姿を見て私は声を出した。


「えっ、嘘!和樹!?」


「なんですって!なんであいつがここに!」


するとモニターに映っていた女の子がしゃべりだした。


≪あなたたち!頭が高いですよ!≫


「なんだと!ただのガキじゃねえか!」


≪無礼ですね!今から言う名をあなたたちの心に刻み付けなさい!≫


すると女の子は両サイドにも現われた。

そしてその2人は片膝を地につける形でひざまずき、頭を下げ目を閉じる。

そして最初からいる彼女は大きな声で彼の名を皆に示した。


≪彼こそ、ツブッターCEO 山田和樹様なるぞ!頭が高い!控えおろー!!≫


彼女は、両手を彼の方へひらひらさせながらそう叫んだ。

どこかで聞いたことがあるセリフで堂々と和樹の紹介を始めた。

そんなことより


「えっ?」


訳が分からなかった。

ツブッターのトップである社長は誰でも知っている、右舷 義孝のはずだ。

今の時代誰もが知っている、成功者の1人として、世界に名を広めた人物だ。

なので、そんな嘘をついても男たちは騙せない。


「あなたがですか?笑わせますね」


「ぶっはっはっ、嘘はもっとばれないのにしないとな!」


「俺でも知ってるぜ、ツブッターの社長は!勉強して出直して来いよバカが!!」


ほら、そんな嘘で騙せない。

ここで皆、ツブッターのトップは右舷社長であるという思い込みにより、ある過ちを犯していた。

社長とCEOは全く違うものであるという考えが分からないようであった。

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