そして転生
陛下にお仕えし、五年。
一番の若輩者ながら『
陛下の本来の仕事にも差し障りがでている。原因は明白だ。再三の招聘に応じない『ヨージ』などというクソ異世界人のせいだ。
思わず、汚い言葉を使ってしまった。いけない。いけない。
「
このおクソ異世界人の捜索に、陛下は多大なる労力を割かれているせいで、いつもお加減が悪い。
やっぱり「お」つけてもクソは汚い。なにか良い言葉はないものか。私は、腕を組むと、片足をパタパタと動かす。
その時、視界に常時表示されているインターフェイス画面、その左上にあるカウンターの数字がまた一つ減った。「またか」と、私はため息をつく。
どうして、そんなに異世界人に拘られるのだ。
私なら陛下を絶対に放っておいたりしない。そんなクズ男、捨て置けば良いものを。
クズも汚い言葉だ。いけない。いけない。
口には出せぬ嫉妬心は、日に日に強くなる。クソでクズな異世界人が残した菓子は、あと三つ。
私はまた彼女を慰めるべく、小さい身体で懸命に走って寝所へ急いだ。
「陛下、発言をお許しください」
彼女は、「……なんじゃ」と、その巨体を物憂げに動かし、寝返りを打って私の方を見た。
「一度、別の菓子職人を招聘してみては、いかがでしょうか」
あまり興味がなさそうな虚ろな瞳が私を見つめる。
「件の異世界人は自己を『菓子を作れる』と称した記録がございます。推測するに、『菓子を作れる種族』であった可能性がたこうございます」
瞳は特に変化はなかった。全然、興味もってない。まずいぞ。そんなに会いにこないクソでクズな異世界人がいいのか。イライラする。
「もう件の異世界人が残した菓子の残りが少のうございますれば、とりあえず別の菓子職人で、かの者が見つかるまでの間をつなぎませぬか」
彼女は瞼を閉じて、「なんでもよい。そなたに任せる」とだけ言うと、また背中を向けた。
頭を下げて退出する。頭をあげると、寝所への扉はもう隠されてしまった。「入ってくるな」ということだ。また、奴を探すのか。
扉が消えてしまった壁に頭をゴンッと、私は打ち付けた。
『
招聘希望者の欄は、「前招聘者に類似する者」としておいた。これなら同じ種族がやってくるはず。また、似たようなゴミクズ男だったら、私が性根を叩き直してやる。
うむ。「ゴミクズ」であれば、汚い言葉とまでは言えないだろう。気に入った。
召喚されたアオイ少年は、大変良い子だった。あのゴミクズが例外だったのだ。
ただ、いかんせん菓子職人としてのギフトに前代未聞のロックがかかっており、期待した働きはいまだできていない。
ギフトに制限がかかるなんて聞いたこともない。彼が出してくれた『プリン』という菓子を食べながら思案する。彼にその話をすると、なぜか笑われた。
「やだなぁ、こっちに来るときにウサギさんが言ったんじゃないですか『インストールに失敗した』って」
私が言った? どういうことだ? もう一つ、私と同じ形の自律型個体があるのか?
でも、なぜその個体は、そもそも
急いで陛下に尋ねてみたが、「同じものを二つも作らぬ」と素っ気なくおっしゃられただけだった。
ゴミクズの件と相まって、余計にイライラが募る。
アオイ少年の激励をかねて、明日の菓子パーティーのメニューの確認に彼の部屋を訪れると、彼はぐったりと、うなだれていた。
ウルフの説明によると、陛下のご所望の『ガトーショコラ』スキルを解放するまでに、まだまだ道のりが長いことが発覚したらしい。
可哀想に。ゴミクズがちゃんとこちらに早く来ていれば、アオイ少年はこのような苦労をせずに済んだのだ。
彼は意気消沈しているにもかかわらず、健気に新しく作れるようになった『ショートケーキ』という菓子を勧めてきてくれる。なんて良い子なんだ。
私は、ショートケーキをフォークで、口に入れる。
そして、気を失ってしまった。
――――――……。
――――……目を開けると、心配そうな顔が二つ見える。
……逮捕されて……それで……。
意識をはっきりさせようと頭を振ると、長い耳が一緒に動く。
恐る恐る触ると、ウサギの耳だった。ああ、そうか……少年を助けて、人間の身体からウサギの身体になったんだった。
あれ……? なんだ? これ。誰の記憶だ?
「ウサギさん、大丈夫ですか?」
アオイ少年がこちらを見ている。なんで、この子の名前を知っているんだろう?
それにこの子はなんで、俺の名字を知っているんだ?
ん? あれ、俺、一人称「私」だっけ?
私は……陛下の執事のウサギで…………
俺は……菓子職人の宇佐木洋司…………
…………
……
俺は(私は)、ノルン(陛下)との約束をすっぽかした「ゴミクズ異世界人」が、自分だ、ということをようやく思い出したのだった。
<第二章 完>
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