第三十五話 秘伝を継ぐ者
「光成、お前スゲェな。どんな運動神経してんだよ。二つもボール使ってよくリフティングなんかできんな」
私は母が勉強しろとうるさいので、光成のリフティングに付き合うといい捨てて、家を飛び出し、運動公園へ遊びに来ていたのである。
「ああ。はじめはぜんぜんできなかったけどさ、ボール二つだと、なんとなくなんだが、このまま練習すれば、いずれ何回でもできるようになる気がするな」
「マジでw? すごくね? けどよ、なんで急にリフティングなんかしようと思ったわけ? しかもボール二つも使ってw」
「ああ、確かにリフティングじゃなくてもいいんだけどな。ほら、前にサザレさんがたたかってるところを見ただろう。あの時のことを思い出したんだ」
サザレさんが敗れてしまったニュースは全国放送されていたので、私も光成もその
「あの時、いくつもプラズマが発射されて、同時にボイパ男が音を消して攻撃してきただろう? あの
「ああ、なるほどね。そういうのはな、反復練習を
「小脳? そうなのか。なるほどなあ。だが、
「ふぁ?」
「大脳とか小脳とかっていい方をすれば、あの時のサザレさんは小脳で動いてたんじゃない。冷静に
「なるほどねえ。そういえば、サザレさんにはATP能力がないっていう
「ひょっとして、それってATP能力なんじゃないのか? 頭の回転を速くするっていう」
「そうか? 単に光合成がハンパないっていう話なんじゃねえのか?」
「いや、でも
「もちろん取ってたに決まってんじゃねえかw。あのサザレさんに直接会えたんだぜ? 俺はそんなマヌケじゃねえw」
「それって、俺に送ってくれないか?」
「ああ、別にいいけど、生データだぜ? 生データを見たって何もわからねえと思うぞ? 今まで俺がお前に送ってたのは、アルゴリズムやシミュレーションのサンプルだったんだ。たとえばボイパで音を消すアルゴリズムとか、重力が強い中での
「そういうのはサザレさんの場合ないのか?」
「それがないんだよ。俺だってあのサザレさんの生データをゲットできたんだから、めっちゃ
このタイミングでのカミングアウトで申し訳ないのだが、私のATP能力、それはすなわち光合成AIという能力であった。
つまり、光合成による生成AI能力なのである。だから、私はパソコンやスマートフォンがなくても生成AIを利用することができるのだ。
私の能力はATPリンクくらいしか目立った能力を
「ワンチャン、サザレさんが実はATP能力を持っていたとして、仮にだよ? お前のいう通り大脳の処理速度を
「だが、俺は見ていたんだよ。あれは目で見て冷静に判断していた。臨機応変に。そうじゃなきゃ、他に説明のしようもないだろう。あれだけの
「確かに、サザレさんはくっそ強かったからなw。サザレさんの秘密は意外とお前のいう通りかもしれねえな。俺もその線でサザレさんのデータを
「
「なんだ?」
「お前んちにあるサッカーボールも貸してくれないか? ボール二つだとさ、このまま体で覚えちまいそうなんだ」
「マジかよw。それはそれでスゲェことなんだけどな。ちょっとじゃあ一回家に帰るか。オカンがマジでくっそうるせえんだけどなw」
こうして私と光成は一度私の家に帰ることにしたのだった。
話はかわるが、ちょうどその頃、
司法取引に応じた若流は、サンズマッスルと特定の関係者について調査をする任務を命じられていた。これは長官から直々の指示で、たとえUOKw内部であったとしても他の
調査の対象となる関係者の一人は、先日
故人が調査対象になっているのは、UOKwが最重要
監視対象となっている外国人については、名をメロンズというそうで、その名を若流自身から決して口にしてはならぬとのことだった。だが、この名を耳にすることがあれば、そしらぬ顔をして必ず報告するようにとのことである。さらに、この人物については絶対に深入りせぬようにとのことでもあった。
それでこの三者、つまり、サンズマッスルの理事長と宮内先生、そして、そのメロンズという人物との間に、直近で何らかの
それから、これは極めて
こういった
「お
「な、なんだって? こんなに早くか? でかしたぞ!」
「いえいえ、ありがとうございます」
「さすがだな。
「ええ。つい先日のことです。シニアプレイヤーの一人が、数日間音信不通になったことがありまして……」
「ちょっと待て。シニアプレイヤー?
「スザクという女です」
「スザク……。なるほど。その女のことについては、君は放っておきなさい。いいな? くれぐれも関係のないことには首を
「はい。それで理事長とシニアプレイヤーの
「調べる? 何をだ? スザクという女の素性か? まさか、君はそれを聞いたのではあるまいな」
「いいえ、三人が調べていたのはスザクが今どこにいるかということです」
「なるほど。ちょっと確認だが、その会話は君を
「いえ、理事長と太満、それに比留守の三人です」
「君は?」
「私はロッカーにかくれていました」
「比留守にはバレなかったのか?」
「ええ、私も相当危なかったのですが、技術班に検査してもらったおかげでなんとかバレずに済みました」
しかし光合成ウイルスについては、
そのため若流は、真っ暗闇のロッカーに入ることによって、光を浴びずに光合成をおさえ、
「それでですね、その時に、話の
「ほう」
「そうしたら、あのバカがロッカーを
「なんだって! 絶体絶命じゃないか!
「ええ。私もあせりましたが、ロッカーを開けられないように内側から引っ張っていました。そしたらヤツは『あれ?』なんてふざけた声を出してガタガタとロッカーを開けようとするじゃないですか」
「君、それは相当マズいんじゃないのか?」
「そうなんですよ。ところがですね、理事長が『何をやってるのかね? そこは
「それで?
「ええ。大丈夫でした」
「そうか。聞いてるこっちがハラハラするな。それで、続けてくれ」
「はい。それでですね、どうもヤツらの話を聞いていると、
「ほう。
「それで
「居場所を知られたくないということか。あやしいな」
「そうなんです。それで比留守はスザクがスマホの電源を入れ次第ヤツを見つけるといったのです……」
「ちょっと待て。比留守がそういったのを聞いたのか?」
「はい」
「おかしいな……。比留守は
「ああ、そういう意味ですか。確かにそうなんですが、
「ああ、なるほど。話をさえぎって悪かった。続けてくれ」
「ちょうどその時にですね。スザクが電源を入れたんですよ。スマホの電源を。すると、
「なんだって? やたら
「私がそんなヘマをするはずがないでしょう。そんなことをしていたら、今こうやって報告なんてできていませんよ。その時はスマホを別の場所に置いていたのです」
「なるほど。君もやるじゃないか。何度も話の
「比留守は場所を
「どこに電話していたのかも比留守は突き止めたのか?」
「ええ。英会話教室に電話していたようでした。ただ、私はロッカーの中にいましたので、残念ながらどこの英会話教室なのかはわかりませんでしたが」
「英会話教室? なかなかあやしいね」
「ええ。すでに
「なんだって? 『メロンズ』と『光合成法案』というキーワードがセットで出てきたのか! でかしたぞ! それで君、録音はどうだ? できなかったのか? スマホは持っていなかったんだろう?」
「ええ、おっしゃる通り
そういって、
「録音できたのか……。やるじゃないか! こいつはスゴいぞ!」
若流は得意げに再生してみせたのだが、むやみに音が小さい。
「ああ、すみません。ロッカーにかくれていたものですから声が遠いんですよね……」
若流はボリュームを大きくする。
「なんだねこれは? ノイズがひどいな」
「あ、今です。今『メロンズ』と『光合成法案』っていったところです」
「なんだって?」
「もう一度再生します」
「ふうむ。まるでホラー映画で出てくる
そこで机の上にある電話が鳴った。長官は電話機をチラッと見てこう続ける。
「報告は他にもあるか?」
「はい。先日、実は副長官に呼び出されまして……」
「なんだって?」
長官は
「私だ。ああ、わかっている。すぐに行くと伝えてくれ」
そういって長官は電話を切った。そして
「その話はこの場ですぐにでも聞きたいところだが、後で時間を調整する。なるべく早くするから
「いえ、こちらこそお時間いただきましてありがとうございました」
「では、これは預からせてもらうぞ」
長官はICレコーダーをポケットに入れると立ち上がった。
「いいか。この件は身内でも他言は禁物だぞ。それと
「承知いたしました」
そういって若流は長官室を出たのであるが、ちょうどその時、
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